釜ヶ崎における福祉型自立の障壁と課題 by Naoko Kawamura
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第三章 海外の社会保障

昨年末発表された2001年度政府予算案から試算すると、2001年度末の国と地方を合わせた長期債務残高は、666兆円、GDPの1.3倍に達する見通しという(36)。経済の低迷とともに、少子・高齢化に伴う年金と医療費の増加が、財政を圧迫していると・して、保険料切り上げや給付切り下げなど、将来的な国民負担増加の必要性が言及されている今、社会保障制度の充実(国庫負担率の増加)は、はたして非現実的な議論なのだろうか。
三章一節では、諸外国の社会保障支出との比較から、日本の社会保障を、国際基準に照らして考察する。また、ばらまき体質と言われ、一般歳出の19.4%(2001年度政府予算案)を占める公共事業支出について、その問題点を取り上げる。
二節では、諸外国の社会保障制度の内容について、ホームレス対策に焦点を絞って考察する。

第一節:社会保障支出と公共事業支出
1 社会保障

支出人口の高齢化に伴い、日本の社会保障給付(国民に直接給付された社会保障費用の総額)の中で、年金給付費など「高齢者関係給付費」が占める割合は、全体の65.0%に達している37。医療給付費は全体の36.5%である。医療給付については、国民医療費の中で老人医療費が占める割合が年々増加傾向にあり、2010年には41%に達すると見込まれる中で、1973年に始まった老人医療費の無料化措置が廃止され、さらに昨年暮れには、高齢者を中心とした患者負担の引き上げを柱とする医療保険制度改正関連法が成立している(本年1月1日より実施)。同時に、断たな高齢者医療制度などの創設は2002年度には必ず実施すること」などとする付帯決議が採択され、真なる負担増が検討されている。

しかし、高齢者関係給付の高さは、低い日本の社会保障給付に占める、相対的な高さを示しているに過ぎない。

 表:社会保障給付費、租税・社会保障負担率の国際比較

日本の、社会保障給付費の対国民所得費は、主要先進諸国の中で最も低い。さらに、これを医療・年金・その他(社会福祉、公的扶助、失業給付など)という3つに区分して国際比較したものが、妻2である。高負担と批判されている年金給付を含め、すべての分野において、日本が最低の水準にあることが分かる。また、給付内容の占める比率をみると、日本は極端に、公的扶助や失業給付、社会福祉などの占める割合が低く、給付部門間に大きな格差を抱えている(38)。

 表:社会保障給付費(対国民所得比)の部門別構成割合の国際比較

表3は、年金給付について、主要先進国が受給者に求める保険料の拠出期間を示したものである。日本の年金制度が求める拠出期間は、主要先進国の中で最も長い。また、定額の基礎年金制度を実施している主要国の中で、その財源についてみると、オーストラリア、カナダ、デンマーク、ニュージーランドは、全額国庫負担である。社会保険料として徴収している国には、フィンランド、アイスランド、ノノレウェー、スウェーデン、イギリス、オランダがあるが、アイスランドでは、保険料を事業主と国で負担しており、残りの北欧3ヶ国の年金額は、拠出期間ではなく、居住期間によって決定される。また、イギリス、オランダでは、保険料は、所得に応じて徴収されるしくみになっており(39)、次節で述べるように、イギリスではほとんどの高齢者が年金を受給している。日本のような、経済合理性を重視した受給者負担を強いる先進国はない。

 表:老齢年金受給のための拠出期間 / グラフ:政府固定資本形成(Ig)の国内総生産(GDP)に占める割合

以上みてきたように、日本の社会保障は、その重要な役割である、所得の再配分機能をほとんど果たしていない状態にある。

2 公共事業支出

次に、財政悪化の大きな原因となっている(政府からすれば景気刺激策としてやむを得ないとされる)公共事業支出について、国際比較を試みる。

公共投資(政府固定資本形成費。国と地方の公共事業費の合計から用地費を除き、、施設費を加えた額に相当する)のGDPに占める割合を、主要先進諸国と比べてみると、日本の公共投資/GDP比は異常に高く、80年代半ば以降、増大傾向のまま推移している。99年度の政府建設投資は、政府投資の約89%、GDP全体の約7.1%を占めた(40)。

97年3月1目付の「ニューヨーク・タイムス」は、「日本の破産への道は公共事業によって舗装されている」という見出しで「日本は、ペンタゴン(米国防省)が支出している国防費よりも多い3,000億ドノレを公共の建設事業に支出している」という準トップ記事を掲載した(41)。(なお、主婁先進諸国の中で、国防費を拡大し続けているのは日本と中国だけである。2001年度予算で、防衛費は一般歳出の1割を超えた。)政府は、公共投資の生産誘発効果・乗数効果を重視しており、1景気刺激策として、3年連続(99・00・01年度)で国家予算の中に、9兆4,O00億円規模を確保、使途を定めない公共事業予備費も3,000億円確保している。

しかし、98年1月19日号「しんぶん赤旗」評論特集版『社会保障の生産、雇用効果は公共事業より大きい一国民経済分析からみた社会保障と公共事業の経済効果一』によれば、同額の税金投入によって、社会保障支出は公共投資に比べ、生産誘発効果で約2倍、雇用創出効果で約3倍の効果を持つという42。野村総合研究所は昨年秋、政府がこのまま高水準の公共投資を続け、民間企業の経営改革が進まない場合、国の長期債務はGDPの約2倍に、完全失業率は約5.5%にb上昇するという試算を発表している(43)。

なぜ、公共投資が必要なのか。私たちは年度末調整のためだけに行われる無駄な道路工事を毎年見ている。10数年以上前に練られた計画の完遂のためだけに執行されようとしている公共事業の数々が、住民の反発をうけ、問題化している。現在の経済社会環境に、公共事業投資のコストが見合うものなのか。利益団体や既得権益に対して、政府が確固とした経済施策を講じることのできないままでは、国民の将来への不安と財政赤字は肥大化していく一方である。
財政構造を健全化し、無駄な公共投資を削減するだけでも、社会保障費を増加させることは、十分可能なのである。

第二節 海外におけるホームレス対策

1 フランス

フランスには、多くの発展的な困窮者救済策が存在する。そのうちの主要なものは、最低生活費扶助(RMI)、連帯老齢年金、連帯失業手当(ASS)であり、いずれも財源は国庫負担となっている。RMIは、25歳以上65歳未満のフランス常住者で、生活に困窮し・かつ労働意欲のある者ならば誰でも受給できる。RMIの受給権は、現在では住所不定者にも開かれており、福祉事務所やアソシエーションに名目的な住所登録さえすればよい。1988年に創設されたこの制度の受給者は現在約100万人、全人口の1.6%にのぼる。単身者で30,027.60フラン/年、夫婦45,041.40フラン/年が保障され続ける。

連帯老齢年金は84年に創設され、受給者は約100万人(人口比1.6%)である。65歳以上のフランス常住者で、年収が一定限度内(単身の年収限度額は43,512フラン・'1夫婦の場合76,515フラン)の者を対象とする。年収がある場合、その分受給額が差し引かれる。年受給額は、最高で単身42,485フラン、夫婦76,215フランである。

ASSは84年に創設され、約50万人(人口比O.8%)が受給している。過去10年間のうち5年間就業していた者で、失業手当の受給期間が過ぎた者を対象とする。支給額は、単身・夫婦いずれの場合も、年額最高29,676フランで、収入限度額の枠内で、他の収入額との差額が支給される(44)。

フランスでは、「ホームレス」は野宿者のみならず、不安定就労を含む広義の失業者、扶助生活者、施設入所者、不適切居住者を指す概念である。このような「ホーム≡レス」は、フランス全体で、約20〜60万人存在するといわれている(45)。野宿生活を送る者の数は少なく、また、野宿者は、夜間開放された地下鉄駅などに用意された簡易ベッドで就寝することができる。

ホームレスの多くは、男性の若年層単身者である。これは、若年層の高失業率にも・1関わらず、職業経験のない者に対する失業扶助がなく、25歳未満の単身者にはRMIの受給権がないことが関与している。しかし、若年層のホームレスは、優先的に公的扶助のある職業訓練や公的就労をうけることができる。一方で、少数派ではあるが、40歳以上のホームレスの場合、失業扶助やRMIをうけことはできるが、家族関係の崩壊などを背景に持つ者が多く、居住を確保した後も、社会関係とのつながりをうまく築けず、孤立していく傾向がある。

フランスにおけるホームレス対策の基本戦略は、彼ら/彼女らを単なる貧困者とみなすのではなく、社会から排除されている存在と捉え、経済的援助を行うだけではな一く、市民権を回復させて社会への再参入を図ることにあるという。.

対策では、安定的な雇用確保と適切な住宅への入居を最終目標に、当面の宿泊施設1の確保1そこにおける社会参入一の轍社会臓職業訓練・職業資格取得実習、公的就労の提供が行われている。また、ホームレス予防策として、家賃滞納者への補葦助と住居からの追い出しを防ぐ措置がとられている。

このような進歩的なホームレス対策は、多くの部分が民間の援助団体の活動によって開拓され、施策化されてきた。政府にに先行して彼ら/彼女らをに支援してきた援助団体に対して、国・自治体が補助金を支給するようになり、運営費が社会扶助基金(公的扶助に関する国庫)の負担に代えられていったのである。こうした強力な支援1団体が存在する背景には、ホームレスに対するフランス国民全体の意識がある。失業、によるホームレス化、その背景にある住宅困窮や貧困問題を自分たち自身の問題としてとらえ、彼らが生活保障を受けるのは当然の権利であると考えている(46)。

市民団体「DAL(ダルDmitauL昭ement:住宅への権利)」は、90年以降、公共機関や公共性の高い企業を占拠し、立ち退きを争う裁判の過程で、占拠の正当性を主張し、公営住宅の再入居を求め、勝ち得てぎれ何万人ものホームレスが存在する 一方で、公共機関や公共性の高い企業が投機目的で購入した建物が、バブル崩壊後転売できずに空家になっていること、公営住宅に空きがあることの矛盾を訴えている。{そのなかで最も大きな占拠運動であったのは、ドラゴン通り7番地の占拠である。1994年12月・「DAL」と市民団体「AC!(アセ!Agir ensemble contre le Comage!=失業と闘うために連帯行動!)」によって劣悪な住家境にある60家族(ホームレス)が、ドラゴン通り7番地の廃校を占拠し、「民衆大学」の開設が宣言された。「民衆大学」は、社会的に排除されている者は同時に「知への権利」からも排除されているとして、「持たざる者」に知への権利を保障しようという試みであった。そiこでは、識字やコンピューター教室、アーティストによるワークショップが開かれ、また、もと学校という建物の構造を生かして、社会的排除の問題に取り組む市民団体'毒に場所が提供された。

こうした住宅占拠に対し、フランス司法省は、進歩的な判決を下していく。93年のルネ・コルティ通りの空家集合住宅占拠では、裁判官は「必要に迫られての空家占拠舳法に違反し舳という判決を下しれ同年9月17目・ニランスの最高裁判所」である憲法院は、「すべての人が適切な住宅への権利を行使する」とは、憲法上の価値をもつ」と判断した。さらに、ドラゴン通りの占拠をめぐる95年の判決においても、最高裁は「住宅への権利は、憲法上の価値を有する」と認めた。これらの判決は、住宅占拠の重要な法的根拠となり、運動の正当性は飛躍的に高まった。95年以降、住宅占拠は全国各地へ広がっていく。さらに運動の内容も広がりを見せ、公共交通占拠1や、発言媒体を獲得するための輪転機占拠、合理化経営による職員不足で客が列をな一幸しているレジや窓口で仕事をする雇用占拠などが行われた(47)。

1一連の運動は政府に、貧困対策として10億フランの「社会基金」を用意すること、失業者にクリスマス手当を支給すること、さらにASSの8%増額を約束させ、最終的にはr社会的排除に抗する法律(反排除法)」の成立を促進した。

1998年7月に成立した反排除法は・ホームレスのみならず・彼らを含む鯛層に、・1対する包括的社会法である。法律の本文は3部構成となっており1、第1部r基本的権利へのアクセス」において、RMIで救済されない25歳未満の者を対象に、3年計画(、一で6万人の雇用援助を行うことを掲げ、また、具体的な住宅保障の措置について言明してい私第・部は「社会的排除の未然の防止」てホームレスに対する・MIの文1給や投票権の行使を認めると同時に、基本的生存手段の保障として、最低限の生活必;需品を購入する所得保障だけではなく・文化'教育'スポーツ活動'交三機関の禾Ij用、1を保障した。第3部「社会的諸制度」では、支援アソシエーションに、行政との協力≡.1団体として法的根拠が与えられた(48)。

2 イギリス
イギリスの所得保障臥・全国民対象の保険料を嚇とする拠出制給付と、租税を財i源とし、所得に関係なく支給される非拠出制給付、低所得者を対象とした所得関連給付の3つに区分される。公的扶助に相当するものは二所得関連給付であり、その主な.(内容は、所得補助、所得関連求職者給付、就業家族税額控除、就業障害者税額控除である。また、医療制度として、租税を財源とし、原則として無料の医療サービスを行う、独特の国民保健サービス(NHS)を実施している(49)。

イギリスでは、「ホームレス」は劣悪な住居環境・簡易宿所で生活している者を表す'寺'j概念で楓HoushgAct(1977年制定、1985・1996年に改正)が、この問題に対応しており、地方自治体は、ホームレスに対して助言情報を無料で提供する義務をもつ。老人・精神障害者・身体障害者・16、7歳の者・罹災者・扶養児童のある者・妊娠している者・親族や夫からの暴力からの避難者は、「優先的二一ド」を有するとされ・彼/彼女らが故意ではなくホームレスになった場合、地方自治体は2年間住居を保障する義務を負っている。必要な場合、期間は延長される。さらに故意であった場合でも、他の宿泊設備を見つけるまでの間、住居を保障する義務がある。

野宿者(RoughS1eeper)問題に対しては、1990年から1997年までの間、年間2,400ポンドの予算を組み、ロンドンを中心とした野宿者削減プ回グラム「RoughS1eepersInitiatiVe」が行われた。主な内容は、ホステルの増加や再定住プログラムの拡充などである。ロンドンの一部地域で行われた調査では、92年に440人存在した野宿者が、97年までに282人に減少レており、成果を上げている。1997年には、ブレア首相によって、rSocia1Exc1usionUnit」委員会が設立され、98年7月、野宿者の現状と施策評価、解決への戦略などに関する報告書「RoughS1eepiエ1g」が発表された。政府はこの報告を受け、野宿者問題に統一的に対処する組織として、99年5月、Department of Environment, Transport and Regions(DETR)内にRough(S1eeping Unit〕」を立ち上げた。この組織は、99年8月、「Amua1 Reporton Rough S1eepig」において、「Rough S1eeping」で報告された回シドンの野宿者数(年間約2,400人が路上生活を経験しており、一夜につき平均約400人の野宿者が存在する)を3分の2までに削減するための、具体的な活動計画を発表している。99年12月までに10%削減、2000年12月までに25%削減、2001年6月までに3分の1削減という段階的な数値目標を設定し、99年度の目標は達成されている。さらに、「Amua1」の中では、野宿者対策に関する責任の所在と、施策の計画・発展の実施機関が明確に述べられるとともに、野宿化予防の観点から、野宿に陥りやすい条件をもつ者に対す■る防止施策が示されている(50)。

 表:優先的二一ド別ホームレス数

上記表から、99年における、全ホームレスの中に声齢者が占める割合は、約3.5%である。また「RoughS1eepir」で報告された、ロンドンの野宿者の中で高齢者が占める割合は、6%であった。このような、高齢野宿者・ホームレスの割合が低い原因として、高齢期の貧困に対する、政策的な対応の充実が挙げられる。

イギリスでは、男性の97%、女性の99%が退職老齢年金を受給しており、無年金者が極めて少ない。また、受給権者は、最低年金額を保障されている。男性の年金平.…均額は、週66ポンドであるが、週50ポンドを下回る低額の年金受給者は極少数で、1年金額は平等化している。低額年金の受給者は、所得補助を受けることができ、単身重高齢者で週64ポンド、夫婦で週99ポンドが最低生活費として保障される。高齢者で、(.この制度を受給している人は、約163万人(全高齢者の15%)で、80歳以上の高齢、者では3人に1人が受給している。

Housing Benefit 等の家賃補助制度は、高齢者の家賃負担を、公営住宅の場合は。。。、民営住宅においては約86%軽減する。それらは地方自治体が補助し、年間で・1世帯あたり約1200〜1500ポンドの給付額となる。イギリス全体で約450万世帯がこの制度を利用しているが、そのうちの約40%が高齢者世帯である。また、ホームレス全体においても、住居喪失理由の中で住宅ろーんや家賃の滞納を挙げる者の割合は7%〜8%と少なく、家賃補助制度による効果が大きいと考えられる。
さらに、低所得者を対象とした地方税給付は、所得に応じて地方税が減免される制≡度で、高齢者の4人に1人がこの給付を受給している。

3 アメリカ

アメリカは、連邦制と各州の権限の強さという特殊事情から、連邦政府による包括的な公的扶助制度をほとんど持っていない。高齢者、障害者、児童など対象者の特殊遍性に補足的所得保障(SSI)・低所得者を対象1した公的医療保障制度メディケイド」、貧困家庭一時扶助(TANF)、フードスタンプといった各制度が分一立しており、その他に州政府独自の制度が存在する。公的扶助制度については96年8月、関連予算の削減などを目的とした「個人責任および就労機会調整法」が制定され、連邦のエンタイトルメントに基づく代表的な公的扶助であったAFDC(要扶養児童家族扶助)を撤廃、代わりにエンタイトルメントには基づかないTANF(緊迫家族に対する臨時扶助)を設置することで、長期受給を制限し、受給と引き換えの強制的な勤労用件を設定するなどの受給制限を厳格化する福祉改革が行われている。

連邦政府唯一の包括的な野宿者対策は、1987年に制定された「マッキー二一・ホームレス援助法」に基づいて実施されるホームレス支援プログラムである。支援プログラムのための国家予算は、具体的にプ回グラムを実施する地方政府やNPOに対して、活動の補助金として配分される。下の表は、連邦政府が同法に基づくホームレス支援プ回グラムのために、関係省庁に割り当てた、99年度予算である。なお、98年度には、臨時シェルター助成として、過去最高額が全米の各自治体に配分された。

 表:99会計年度ホームレス対策予算の振り分け

99年に公表された全米一斉調査「ホームレス支援プロバイダーと利用者全国調査」によると、95年10月〜96年11月までの調査期間中、全米で約21,000個のホームレス支援提供所があり、約40,000の支援プログラムが実施されていた。支援策の中'1には、荒廃したホテルを買収して雇用と福祉を組み合わせたホームレス用支援住宅へ転換する取り組みや、ホームレスに対して恒久的な住宅を供給する取り組みなど、居住に関するものも多い。

全米市長会議は毎年、55都市が参加するホームレス対策本部を設置し、貧困問題に'・!関するレポートを公表している。99年12月に公表されたレポートによると、過去11年間に、緊急食料・緊急シェルターに対する需要は、それぞれ平均18%、12%増加し・1ており、需要増は今後も続く見通しがされている。また、報告では、アメリカは好調…な経済状況下にあるが、野宿状況は景気に関わらず、一層悪化するのではないかとい..;う懸念が表明されている。

4 韓国

韓国の公的扶助は、生活保護事業、罹災民救護事業、報勲事業を主軸としている。・一1また、社会福祉サービスとして、児童・高齢者・障害者・女性・野宿者の5分野を対象とする主要事業の他に、社会福祉相談、職業補導、無料宿泊、地域社会福祉、在宅福祉、医療福祉、社会福祉館運営、精神疾患者およびハンセン病完治者の社会復帰等と福祉施設の運営および支援などがある(54)。

従前、韓国では、路上野宿者(路宿者)を施設で収容、保護する施設収容主義がとられており、1997年末の時点で、43個所の保護施設に12,577人が収容されていた。そのため路上にいる野宿者は少数となり、社会的関心も薄かった。しかし1997年末の経済危機による低所得失業者の増大は、ソウル駅周辺に約2,000人の野宿生活(者(このうち約8割は建設業の日雇労働者で、年齢層は30歳代〜40歳代中心)を生み出し、社会的関心が高まった。98年、民間団体「失職路宿者対策・宗教・市民団体協議会」が結成され、「全国失職路宿者対策・市民団体協議会(CRCMH)」に発展した。CRCMHは現在、政府の保健福祉部と連携しながら、活動を展開している。公的扶助においては、中央政府により庶民生計安定対策本部が設置され、低所得層の生計保護と、大都市における路宿者特別保護事業が施行されている。98年度には、時限的生活保護者として31万人を選定し、生計費・学費・医療費などの支援を行った。99年度には76万人に増加してい乱・・1

ソウル市は、98年7月15日「ソウル市路宿者対策協議会」を発足し、同年10月までに小規模シェルターを69箇所設置した。これは応急的な保護措置であったが、99年からは、シェルターで生活している路宿者の自立と社会復帰を目指した施策を展開している。これらのための予算は、98年度で200億ウォンで、99年度123億ウォン、2000年度105億ウォンで、99年12月までに、全国に約150箇所の小規模シェノレターが設立された。福原宏幸氏らの調査によると、2000年3月時点で5988人の路宿者が利用し、路上に残っているのは1,065人である。

こうした路宿者対策施設の運営費は、国が50%、ソウル市が10%、市民の寄付やロッテ財団などの企業財団からの寄付が40%を負担している。路宿者を支援する、民主労働組合を母体に設立されたNPO組織「失業者総合支援センター」に対しては、全公務員労働組合員の給与の5%が、その資金として拠出されている。
99年には、路上野宿問題が長期化することを予想して、61年制定の生活保護法に,代わる国民基礎生活保障法を制定、2000年10月から施行されている(時限的生活保護事業は、生活保障制度に吸収された)。生活保護法では、勤労能力のある生活保護一、…対象者は、教育・医療費のみを支給され、生計費を受給することができなかった。国竈民基礎生活保障法では、保障機関が、勤労能力の有無に関わらず、すべての低所得層の基礎生活を保障する。さらに、国の責任において就労機会を提供することが定められ、社会福祉専門要員が、受給者の勤労能力・世帯要件・自立欲求などを調査し、個々の自立支援言十画を設計し、自立に必要なサービスを体系的に支援するようになっている。また、NPOなどの市民団体と協同関係を構築していくことや、当事者間の自助組織に対して支援を行うことが、法制こ明示されている(55)。

このように、韓国の公的扶助制度は、画期的な発展を遂げている。さらに政府は、/(1社会福祉サービスにおいて、8つの宗教団体が参加する韓国宗教界社会福祉代表者協、一1議会を発足さ也教団などに対して福祉活動膚報支援センターの開設を支援するなどして、民間による福祉参加の活性化を図っている。また、宗教団体間・社会福祉界間で福祉活動情報を共有できる体制を構築しており、「失職路宿者のための愛の運動」を'展開している。

5 海外の諸施策から学ぶこと

4ヶ国すべてに共通しているのは、厚い民間支援団体層の存在である。フランスでは、誰もが社会的諸制度にアクセスし、文化的な生活を営む権利があるという「社会的市民権」を、基本的人権として、全国民で守っていかなければならないという国民的合意が形成されており、社会的排除をうけている者の運動を後押ししている。また、フランスを含むヨーロッパ諸国では、支援団体によって「路上新聞」を発行し、野宿生活の現状について広く市民を啓発しており、ホームレスが新聞の売り子となることで、彼らの稼ぎと、市民とホームレスとの直接的な接触の機会を創出している。こうした路上新聞の中で最も発行部数の多いものは、イギリスの「ビッグ・イシュー」である。≡アメリカは「自助努力」を強く求める国であるが同時に、市民の社会的弱者に対する意識は高く・多数の・そして多様なボランティアセクターが彼らを支援している。 アメリカ、EU諸国、ロシアなど多くの欧米諸国で活動している民間ボランティア組織の連合体「ホームレスと共に活動する国民的支援団体ヨーロッパ連合(FEANTASA)」はホームレス問題を・政府の課題と同時に自分たち自身の課題一市民的連一1帝によって解決を図るべき課腫一として捉えている(56)。韓国における、路上野宿者対策費用に占める寄付の高さ、全公務員給与の5%補填という考え方は、国民の高い問題意識を示している。

また、ヨーロッパ諸国では「適切な住居は基本的な人権の'つである」という居住権の意識が確立しつつある。フランスやイギリスでは「ホームレス」は、不適切居住者を含む広義の概念である。これらの国では、住居を社会保障の一つとして捉えており、ホームレス防止策としての、家賃補助制度の重要な役割を認識している。「住宅占拠」は、居住に対する強い権利意識を現しており、こうした民間運動は、居住権に対する法的根拠を獲得させた。

さらに家賃補助以外に・これらの国では・ほとんど全ての高齢者が老齢年金を受給1でき、年金額も平等化していることが、高齢者のホームレス化を防いでいる。

これら海外の諸施策と日本の野宿者対策を比較すると、その未熟さが浮き上がる。、1釜ヶ崎孤さまざまな民間支援団体が・熱雌動を展開し、寝床・就労確保の1成果を挙げているが、他地域あるいは市民レベルでの啓発活動には至っていない。多{くの野宿者が、生きる糧として「炊き出し」による援助を挙げているが、生存権を直≡接的に保障する、こうした民間支援活動に対して、行政による援助は全くない。
また、日本では、社会保障制度として居住対策を認識しておらず、野宿防止策とし;て、家賃補助には全く触れていない。さらに1章で述べたように、日本の年金制度は、高額の保険料と長期の拠出期間を必要とすることから、受給額格差、無年金者の存在など、多くの問題を抱えており、'高齢者の野宿化を防ぐ手立となりえていない。連帯老齢年金に相当する全額国庫負担の制度として「老齢福祉年金」が存在するが、受給への壁は高く、福祉年金受給者が全老齢年金受給者に占める割合はたった0.7%、受給額は約3万4,000円/月であり、ほとんど機能していない状態である。

また、輻における、野宿者問題一の対応の早さ、イキ1スの「Annual」における段階的で具体的な目標数値の設定も、見習うべき点である。好景気の下で野宿問題が解決せず、悪化の道を辿っているというアメリカの報告からは、公共投資による景気刺激が、野宿問題の本質的な解決にはならないことを学はなければならない。

第四章 福祉型自立の可能性

これまでの靴福祉型自立の障壁となる、日本の社会保蛙制度の鯨や・不適'一切な運用方法などを見てきた。しかし、すべての受給希望者に・生活保護が支給されれば済むのかというと、問題はそう容易では帆釜ヶ崎支援燃の聞き取りで広福祉型的こ流した高齢者の約機が・慢性的疾患を抱えて(自覚して)おり、加齢により、その数は一層増加すると考えられる。またアルコール依存症や老人性痴呆症、それらの重複疾患等は、個人の力で解決できる問題ではない。本章では、福祉型自立の可能性について、さらに詳しく考察する。

第一節:簡易宿泊所のアパート化と釜ケ崎のまち再生フォーラム

諸外国の進歩的な社会保障制度・野宿者対策から、日本は多くのことを学ぶことが。、一でき私しかし、これほど高齢期の野宿者を抱える縫駄1本以外に龍し帆'1釜ヶ崎では、福祉型自立のよりよい方向性を探る取り組みが、謝テ錯誤の中で進められている。

釜ヶ崎の簡易宿泊所は、全部で約曼万人分存在する57が、野宿者の増加と比例し^碁て入所者は減少し(ドヤ代を支払えないために路上生活へ桝テする)、その稼働率は'1紘約・・%といわ帆こうした中から・生活保護受給幅祉型自立)を脳して・.''1簡易宿泊所からアパートヘと転用する動きが、簡宿業者の中で生じている。本節では、一…その中でも、地域N・Oなどと連携し、地域づくりの視点に配慮を示している・3件'∴.1の転用アパートと、そうした動きを支える「釜ヶ崎のまち再生フォーラム」について紹介する。

2000年6月の「アプリシエイト」を皮切りに、2000年中に「陽だまり」「'おはな」{と3件のアパートが、半径100m以内の地域にオープンした。3件とも、エレベータ一付きの6階程度のマンションで、約100室の居室はすべて3畳一間、各室冷暖房・テレビ・冷蔵庫付き。1階に共同浴場、各階にごく小さな共同炊事場と洗面所がある。また、居室の狭小性を緩和し、入居者同士の交流を促進するために、1階に11〜12畳程度の共同リビングを設置している。こうした簡宿の改修工事は、NPO元気百倍一、書ネット(まちづくり再生フォーラムに賛同するNPO)が組織した元大工などの釜ヶ崎高齢労働者らが手がけた。保証金・保証人不要で、家賃は、生活保護の住宅扶助上.限ぎりぎりの月額41,800円。共益費・電気代・冷暖房費などを合わせた約5,000〜8,000円を、各人の生活補助費から支払うことになる。

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