釜ヶ崎における福祉型自立の障壁と課題 by Naoko Kawamura
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おわりに 

これまでみてきえように、野宿者を急増とせている根本的な原因、工日本の社会保障制度の未熟さ、実施機関の社会保障制度に対する不理解にあった。多くの問題点を;抱えたまま運用されてきた社会保障制度力。不況と高齢化という事態に直面し、本質1的な問題を露呈したに過ぎない。釜ヶ崎が国内最大の野宿者を抱えるのは、従来、行政施策から見落とされてきた(新自由主義の思想から、そうすることが市民社会に容,記されてきた)この日雇労働市場が、制度矛盾の影響を最も強く被っているからなの'であり、それは決して、他の常用労働市場や、釜ヶ崎とは無縁と考えている市民社会と無関係なことがらではないのである。

新聞報道によ猟大阪弧仕事が見つからないまま自立支援センターを退所せざるを得ない野宿者に対する生活保護適用に際して、これまで市が住居ではないとし1て認めてこなかった簡易宿泊所を生活拠点にする場合も例外的に支給対象とすることを視野に入れて検討する方針を立てている(69)。

また、社会的に孤立した人やリストラで失業した中高年、ホームレスなど、社会福祉が十分行き届いていない人たちへの社会福祉のあり方を検討するために設置された、厚生省社会援護局長の諮問機関r社会的な援護を要する人・に対する社会福祉のあり1方に関する検討会」の報告書が、昨年12月8目、公表された。報告書は、社会福祉≡の分野で、貧困だけではなく「社会的排除や摩擦」「社会的孤立や孤独」などの問題の重複、複合化が起きていると指摘し、社会福祉協議会・自治体・NPOなどの情報交換の場を設け、地域の「つながり」を再構築する必要性を強調している。さらに報一(告書は、生活保護制度について、保護の要件や適用法、社会保険制度との関係の検証などを求めている。これをうけて厚生省は、2001年度中に、低所得者層の全国的な実態調査を実施するとともに、野宿者への生活保護適用方法の改善を検討する方針だという(70)。

これらの方針は、大きな前進といえるが、国による野宿者対策が、はだし一ごどれだけの具現性をもって、実行されうるのか。たった今、寒空の下で、明日の仕事のあてもなく、路上で夜を明かさなければならない人がいる。路上で死んでいく人がいるのだ。99年の路上死は、釜ヶ崎だけで36名、行路病死亡者を合わせると、291名にのぼる71・すべての野宿者が容易にアクセスできる社会保障の枠組みは・一目も早く構'1築きれなければならない。そしてそのための国民的合意を形成することは、私たち一人一人の責任でもある。

本論文を書くにあたっては、釜ヶ崎支援機構の松繁逸夫氏から、貴重な資料をお貸しいただくとともに、釜ヶ崎支援機構の活動に関わらせていただき、多くのことを学ぶことができた。本論で使用した釜ヶ崎支援機構の福祉相談資料のほとんどは、釜ヶ';崎支援機構の本間全氏によって、聞き取りが行われている。釜ヶ崎のまち再生フォーラムや喜望の家、毎週2回、釜ヶ崎野宿者に、約2,000食の「炊き出し」による配食を行う「勝ちとる会J、その他釜ヶ崎での多くの人々との出会いすべてが、この論文を書く基礎になっている。重ねて感謝を述べたい。

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