釜ヶ崎における福祉型自立の障壁と課題 by Naoko Kawamura
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第2章 最近の取り組み       

大阪市では、昨年10月から自立支援センターがオープンし、ようやく国による野宿者対策が、形をなし始めたところである。二章では、国・府・市にJ≡る最近の野宿者対策についてそれぞれ考察していく。

第一節:雇用対策

長引く不況による失業者の増大に対応するために、政府は雇用対策として、99年6月、補正予算2,042億円を計上して、99年11月から2002年3月幸での2年半の期間限定で「緊急雇用・就業機会創出特別対策事業」を実施することを決定した。この予算から、大阪府に対して142億円の「緊急地域雇用特別交付金」が与えられ、この中から大阪府独自分は約71億円、大阪市に約22億円、残りが府下各市町村に配分された(23)。

大阪市は、交付金の3分の1にあたる約7億円を、野宿者の雇用対策に活用することを決定し、99年度から、高齢者特別清掃事業i枠で1日90名の雇用を創出している。一方、大阪府は99年度、わずかな「風倒木搬出処理委託事業」と「あいりん労働福祉センター就労斡旋機能回復委託事業」(期間雇用で1目20人)措置を講じたに過ぎなかった24.2000年度からようやく、交付金を高齢者特別清掃事業枠で活用することを決定し、9月25目から、1目35名の雇用が創出されている。

現在、特別清掃事業は、従来からの雇用枠と合わせて、一目178〜194名の雇用を創出している。しかし、2000年度の就労輪番登録者は、2,815名にのぼっており、労働者が就労の機会をもつのは、月に3回程度である。ほとんどの輪番登録者は、特別清掃を主な収入源にしており、月に2,3万の収入は、野宿からの脱却の手助けになっていない。三畳個室形式の簡易宿泊所料金は、最低でも一泊1,000円、現状では宿所代と最低限の食費すら、捻出することはできない。

釜ヶ崎反失業連絡会ii(正式名称:釜ヶ崎就労・生活保障制度実現をめざす連絡会)・は、国に対する要望書「野宿を余儀なくされている労働者の経済的自立援助に関する要望」のなかで、特撮就労枠の3,000人への拡大を求めている。1日3,000人の就労確保と、登録労働者の就労限度をアブレ手当の受給資格となる月13目にすることで、6,000人が、生活保護受給者と同等の最低限度の生活費を得られ、野宿から脱却できるという計算がされている(25)。

労働者の収入(月13目就労し、日雇雇用保険3級の給付金を受給すると仮定)=手取り賃金5,700円×13目十アブレ手当4,100円×11目=119,200円その上で、この総数6,OOO人規模の事業費を、64億320万円と算出している。

総事業費=一人当たり賃金6,200円×3,000人×26目×12ヶ月(58億3,200万円)十間接事業費見込み6億円=64億320万円

労働省は「直接的な失業対策事業は二度としない(iii)」という姿勢を崩しておらず、現在のところ、こうした要望が通る見込みはない。失業対策制度調査委員会による94年12月9日の報告書によれば、「高齢者雇用対策や地域雇用対策についても、年々整備されつつあるある」らしく、「雇用失業対策は、民間企業における雇用の安定や雇用の促進のための施策の拡充、発展およびその積極的活用を基本とすべきであり、失対事業のように失業者を吸収するために国や地方公共団体が事業を実施するべきではない」という(26)。しかし、現在の雇用環境が、高齢者にとっていかに厳しいか(vi)。

ほとんどの野宿者が、仕事をしたいと切望している。宿があり、仕事があることは、精神面・身体面における安定をもたらし、間接的には、行路病人(v)や医療センター患者数などの減少をもたらし、財政負担を軽減すると考えられる。6,000人の野宿者を路上から掬い上げることは、地域住民の要望にも一致する。省庁再編により、労働厚生省となった今、労働行政の在り方について再考し、野宿者を直接的に路上から掬い上げるこうした施策について、真剣に検討するべき時にあるのではないだろうか。

第二節:民生施策

下の表は、大阪市の平成11年度あいりん対策及ぴ野宿生活者対策新規・拡充事業一覧表である。

 表:平成11年度あいりん対策及び野宿生活者対策新規・拡充事業一覧表

総費用8億6,010万6,000円のうち、半分以上の4億3,906万5,000円が、生活保護施設(定員100〜150名)の施設整備に向けられている。

2001年1月現在、救護施設(自彊館三億寮)で保護をうける場合、生活扶助64,950円・施設事務費145,070円となり、一人当たり保護費は、210,020円/月である。さらに施設に対して、大阪市民生局から、職員雇用費、暖房費、寝具整備などに対する各種運営費補助が支払われる。一方、アパートにおける生活保護では、65歳の単身者世帯の場合、生活扶助80,410円・住宅扶助41,800円で、計122,210/月(大阪市)の支給ですむ。

野宿者数増加をうけて、市更相における近年の生活保護相談件数は、96年度10,422人、97年度17,434人、98年度23,961人と、2年間で倍以上の高い伸びを示した。しかし保護決定数(割合)は、97年度2,917人(16.73%)から98年度2,674人(11.16%)と大幅に減少している。

据置別保護相談件数

この保護決定数(割合)の激減は、生活保護施設の収容人員と深い関係があると考えられる。97年の時点で、釜ヶ崎野宿者が入所する救護・更正施設は、つねに定員超過の状態であり、定員の2倍以上が入所する施設も存在していた(付表参照)。施設数は、野宿者の増加に対応できる状態ではなかった。市更相は、収容主義を旨とするが故に、野宿者の困窮状態の如何ではなく、施設収容限度という理由から、保護決定を怠ったのではないか、と推測される。

施設保護の希望者が多いならば、このような状況を打開するために、新しい救護・更生施設をつくることも必要であろう。しかし、重要なことは、彼らが施設入所を希望しているのか、また、救護・更生施設に入らなければならないほど身体上・精神上の支障をきたしているのか、ということである。「ハコ」を作るためには莫大な予算が必要となる。96年滋賀県に開設された救護施設(定員200名)の総事業費は、約22億2,200万と計算されており(27)、その中で国庫補助金・大阪市義務負担分・大阪市特別助成金あわせて18億9215万が大阪市から補助されている。受給者自身が望まない多額の費用だけが必要な施設建設ならば、その非合理性について再考の余地がある。

98年度、市更相経由の生活保護における、各種扶助費総計は、約92億2,100万円、施設事務費は約28億4,200万で、市h節事務費は総支給約122億6,300万円のうち、約23.2%を占めた。同年の大阪市全体の各種扶助費総計は、約1,255億円、施設事務費は約42億円(総支給費約1,297億円(28)。施設事務費は全体の約3.3%)であり、市更相を経由する場合の、施設事務費が占める割合の異常な高さを示している。施設保護か居宅保護かについて、本人の希望と体調などに基づいた適切な対応をすることにより、現状の生活保護会計で、より多くの野宿者に生活保護を適用することが可能になる。

そのほかの釜ヶ崎対策として、大阪市は単独緊急事業として600人収容の夜間シェルター「あいりん臨時夜間緊急避難所」を2000年4月1日から解説している。また、3年を期限とした暫定施設である長居公園内仮設一時避難所(収容人員約250名、総事業費10億円)が、2000年12月29日から運営されている。いずれも国の補助はなく、市の単独費用で賄われている。

野宿者問題に対応するためにの国による本格的な取り組みは、99年2月関係省庁・地方自治体からなる「ホームレス問題連絡会議」設置に始まった。「連絡会議」は、同年5月26日「ホームレス問題に対する当面の対応策」を発表し、その中で「ホームレス」を、「失業、、家庭崩壊、社会生活からの逃避など様々な要因により、特定の住居を持たずに、道路、公園、河川敷、駅舎などで野宿生活を送っている人々」と定義、@就労する意欲はあるが仕事がなく、失業状態にある者A医療、福祉等の援護が必要な者B社会生活を拒否する者という、3つのタイプに類型化し、タイプごとの施策体系を述べている。タイプ1に対しては就労自立を支援、タイプ2に対しては福祉等の援護による自立を支援、そしてタイプ3に対しては、社会的自立を支援しつつ、施設管理者による退去指導を行うというものであり29、特にタイプ3に関しては、治安対策の側面を強く押し出している。

しかし、「社会的生活を拒否する者」と判断するのは一体誰で、どの程度の期間の接触でそれを決定するのであろうか。また、実際に野宿者が社会性を喪失していたとしても、そうした事態に至るまで問題を放置したのは行政である。彼らに対してこそ、身体的・精神的なケアを通じた、具体的な社会復帰策を講じる必要があるのではないのか。さらに、「公共の場」に定住せざるを得なかった野宿者に対して、その居住権を奪うことが許されるの(vi)。

「対応策」では、地方公共団体による法外事業が根本的征野宿解決策ではないために、財政負担が拡大していることが指摘されつつ、自立支援事業(自立支援センター)構想が立ち上がった(vi)。

これを受けて、99年7月以降、自立支援事業の検討が開始され、2000年3月8目、ホームレスの自立支援方策に関する研究会報告がなされた。その中で、・自立支援に関する相談・指導体制の中心は福祉事務所となること(センター入所の決定とともに、途中退所者・就労未決定者等への対応も、福祉事務所が行う)、センター入所者に対する保障は生活保護外で実施されることが述べられた。また、自立支援を進めるための課題として、生活保護制度の適切な運用を挙げている。福祉事務所や保健所等関係機関の連携した積極的な街頭相談の実施、福祉事務所等の窓口への誘導、それらを行う上での民間支援団体やNPOとの連携・協力が言唾われている。センターの出口問題に関しては、利用期間中に就職出来なかった者に対する処遇の確保を明示している(31)。

2000年3月3目、厚生省は、社会・援護局主管課長会議を開催し、その会議資料において、野宿者の健康状態の悪さや、アルコール依存症や精神障害を抱える者の存在を指摘し、保健所等の巡回健康相談などによる健康管理指導の実施と、更正施設の整備、養護老人ホームの整備拡充について述べている。また、雇用・福祉・住宅等各分野を横断する総合的な野宿者対策の必要性、特に総合的な相談・指導体制確立の重要性を指摘している。その上で、福祉事務所等による街頭相談の整備経費について、国庫補助の対象とする考えを述べている。さらに、国庫予算を活用して、新たな施設を整備するほか、既存施設の活用や、一定期間ならば、仮設建物による自立支援事業補助対象とするなど、弾力的な予算運用姿勢を示した(32)。

政府は「対応策」に基づき、ホームレス自立支援事業と自立支援事業の本格的実施までの間の緊急的な事業のために、2000年度予算として8億9,200万円を計上した。最終的には全国で8個所の自立支援センターを設置し、全国で1,300人を受け入れる予定である。支援事業の実施主体は地方公共団体で、国が施設整備費及び運営費のそれぞれ2分の1を補助する。2001年度厚生労働省所管要求では、「地域福祉の増進」の項目で要求した213億円の中に、自立支援対策費が20億1,OOO万円(内訳は、ホームレスに対する自立支援に10億円、ホームレス自立支援事業の拡充に7.9億円、緊急一時的な宿泊施設を2個所設置して、NP0等がホームレスの共同生活〜自立への道筋をつくるという事業に対し2.2億円)が盛り込まれている(33)。緊急一時避難所の定員は1個所1,000人程度と予想されている。

自立支援方策に関する研究会報告において、NPO等民間団体との連携や生活保護の適切な運用を挙げていることは、評価できる。しかし、現在のところ、福祉事務所等関係機関が、民間団体と連携して街頭相談を行う動きはなく、生活保護申請時、65歳未満の野宿者に可稼能力を問う姿勢も変わっていない。また、自立支援事業の入り口も出口も、福祉事務所が担当するが、あまりに福祉事務所の負担を高くしている。自立センター設置場所は同時に、野宿者問題を抱えている場所でもあり、職員はただでさえ、野宿者への対応に追われているはずである。西成区福祉事務所についていえば、現在、ケースワーカー一人につき、100人を優に超えるケースを請け負っていると聞く。人員の確保と十分な研修が急務である。

自立支援事業は、大阪市では2000年10月に始まったばかりで、まだこの事業に対する判断はし難いが、全国で8個所、1,300人という規模はあまりに小さい。また、入所期聞中(原則3ヶ月、一定の要件を満たせば6ヶ月まで延長可能)に就労先を見つける手立に関して、具体的な施策がない。ほとんどの入所者が、就労先を見つけられずに入所期間を終了し、生活保護に移行するだけでは、いたずらに法外援助期間をおき、地方の財政負担が高くなるだけである。早急に、雇用創出の手段を考えるべきで、現下の雇用情勢においては、行政による雇用機会の創出を図る必要がある。

※注
i 反失連や労働者の粘り強い要求運動によって実現した府・市による雇用創出事業。対象は55歳以上地区労働者で、作業内容は、地区内の清掃や、地区外の清掃・除草、保育所・公園の遊具塗装・整備など。94年、1目の求人数20〜30名、登録労働者940名から始まった。

ii 釜ヶ崎のさまざまな支援団体が連帯し、行政に対して就労対策と福祉対策を求めて活動するために、93年に結成された。

iii 96年、失業者を優先的に公的雇用する失業対策事業は廃止された。iv99年度、55〜64歳の有効求人倍率は0.09%で、10人に1人も職を得ることができない。

v 99年度の西成区内行路病人件数は7,784人で、そのうち釜ヶ崎地区で起きたものが6,663人である34。救急車で医療機関に搬送された野宿者は、生活保護法上の「急迫保護」のケースにあたり、医療機関に生活保護法を適用して、医療費が支払やれる。

vi 1993年3月10目、国連人権委員会(差別防止及び少数者保護小委員会)は日本政府を含む53ヶ国満場一致で「強制立ち退きに関する決議」(1993年77号)を採択している。決議は、無権利占有者や仮テント居住者、路上生活者にも等しく適用されうる、対象となる住民の、占有状態の合法性についての留保を付さないものであった(35)。

 生活保護施設入所状況:月末在籍者数

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