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釜ヶ崎における住民登録問題について

当法人事務所・施設における住民登録問題についての見解

2006年12月27日

特定非営利活動法人 釜ヶ崎支援機構
社会福祉法人 ふるさとの家

本年 12月 20日に、大阪市市民局が「『あいりん地域』での住民登録問題について」と題する文書を記者発表し、その中で「既に明らかになっている萩之茶屋 2丁目の 3,530人の住民登録に加え、市民局において調査した結果、新たに 2箇所で同様の住民登録があることが判明しました。」として、西成区萩之茶屋 1丁目 5番 4号にある釜ヶ崎支援機構に 129人、西成区萩之茶屋 3丁目1番 10号にあるふるさとの家に 27人の住民登録があることを発表しました。それに伴い、新聞各社は、「架空登録さらに2ヶ所」(朝日)、「西成の大量住民登録新たに 2ヶ所計 156人」(産経)と報じ、テレビ各局においては「架空登録」「違法登録」「虚偽登録」との見出しをつけて、夕方のニュースにおいて放映しました。

これらの発表や報道により、釜ヶ崎(あいりん地区)の日雇労働者や、市内で野宿生活を余儀なくされている方から、「住民票は消されてしまうのか」「今後どこにおけばよいのか」との不安の声を数多く聞きます。釜ヶ崎支援機構とふるさとの家の両法人は、これらの人たちが住民登録を失ったり、あらたに住民登録できなくなることによって、市民的諸権利を得ることができなくなり、自立への道を閉ざされてしまう結果になることを深く憂慮し、本日大阪市長宛てに別紙の要望書を提出いたしました。

この問題について、関係各方面ならびに野宿生活を余儀なくされている皆さん、釜ヶ崎の日雇労働者の皆さんに多大なご心配をかけていることをお詫びするとともに、本問題に対する両法人の見解を明らかにするものです。

1、問題の発端

発端は、本年 12月 7日に、京都での他人の住民票の不正利用によるなりすまし・住民基本台帳カード不正取得事件に絡んで、不正利用された住民票が、萩之茶屋 2丁目にあるひとつの支援団体の建物に住民登録されたものであり、その建物に 3,300人の住民登録があることは不自然だとして、マスコミ各社が大々的に報道したことに始まります。

今回の両法人の事務所・施設における住民登録の問題も、この一連の釜ヶ崎における住民登録問題の流れの中にあります。

2、両法人における住所設定の取扱い方

特定非営利活動法人 釜ヶ崎支援機構は 1999年 9月に認証され、翌 2000年から萩之茶屋 1丁目 5番 4号にある 2階建のプレハブに事務所を移転しました。当法人は「野宿生活を余儀なくされている人々と野宿に至るおそれのある人々の自立支援」を目的として、55歳以上の高齢日雇労働者・野宿生活者を対象にした特別清掃事業を始めとする就労機会提供事業、寝場所のない人々を対象にした臨時夜間避難所による寝場所提供事業を中心に、その他就職支援事業や技能講習事業・公衆衛生事業・福祉生活相談事業等、幅広く自立支援事業をおこなっています。

社会福祉法人フランシスコ会 ふるさとの家は 1977年に現在の場所に移転して以降、高齢の野宿生活者・日雇労働者に、昼間の憩いの場・休憩所として施設を開放するとともに、それらの人たちに対して生活相談・福祉相談・援助活動をおこなっています。

私たちの目標は、すべての人が野宿生活から脱出して畳の上での自立した社会生活を営めるようになること、すべての人が野宿生活を余儀なくされることのない社会制度を作ることです。そのための相談・援助活動の中で、住む場所がないため野宿生活を余儀なくされていたり、簡易宿泊所や野宿生活・保護施設や夜間避難所等を短期で転々とせざるを得ないために住民登録できる場所がないが、自立支援のために住民登録が欠かせないと思われる人に対しては、固定した住居が得られれば住民登録を移すことを条件に、事務所や運営する施設を住民登録先として利用することを認めてきました。

3、住民登録は市民的権利を得るために欠かせないものです。

市民としての権利を得、あるいは行使できるためには、住民登録は不可欠です。雇用保険手帳の取得に限らず、選挙権・被選挙権、国民健康保険・介護保険等の社会保険制度への加入、年金手続き、運転免許証の取得(再交付ふくめ)、印鑑証明書・住民基本台帳カード等の身分証明の取得、預金通帳の作成などありとあらゆる場面で住民登録が必要とされています。

公園や路上で野宿生活を送っているが、調べてみると年金の受給資格がある、しかし「住所」がないと年金の裁定請求をするのに支障をきたしたり、振込先の銀行口座を作れない。そのためには一時的にどこか連絡のつくところに住民登録をしなければならない。このような相談は後を絶ちません。実際に厚生年金や国民年金、企業年金、さらには労災保険の障害補償年金にいたるまで、当法人事務所・施設に一時的に「住所」を置くことによって年金の受給や再開が可能になり、アパートを借りて野宿生活から脱出することができた事例、年金額が少ないため野宿生活から脱するまでには至らないが、当法人事務所・施設を現況届の送付先にすることによって、年金受給を続けてこられた事例は少なからずあります。

また、野宿生活者だけではなく、年金でアパート暮らしをしていたが、長期に入院することになってアパートを引き払わざるを得なくなったため、健康保険・介護保険を続けるために何とか住民票を置いてもらえないかと相談され、当法人施設におくことで、年金受給と健康保険・介護保険を続けることができた事例も数例あります。

4、固定した住居をもつことができない状態にある市民が多数います。

住民基本台帳法が予定している「住所」として設定できる固定した住居をもつことができない状態にある市民は、日本全国に多数存在しています。ひとつは日雇労働者、もうひとつは野宿生活者(ホームレス)です。日雇労働者は仕事の都合で「飯場」と呼ばれる建設業者の寄宿舎や釜ヶ崎(あいりん地区)にある簡易宿泊所間を、きわめて短期間で移動を繰り返さざるを得ず、仕事がないときは野宿しなければならなくなることもあるため、1箇所に「居住実態」といわれる状態をつくるのがきわめて困難な人たちが多数います。また、野宿生活者は、「住所」として設定できる固定した住居を、持っていないのは明らかです。2003年に国がおこなった「ホームレスの実態に関する全国調査」では、全国で 25,296人、大阪市内で 6,603人の方が野宿生活を余儀なくされていることが明らかにされています。さらには、飯場や簡易宿泊所で暮らす日雇労働者が、全国で少なくとも数万人はいるでしょう。「居住実態」ということのみをもって住民登録問題を処理することは、これらの人たちが市民的権利の枠外に追いやられる危険性をはらんでいます。固定した住居をもっていないとしても、どこか連絡の取れる場所を住所地として住民登録しなければ、これらの人たちは、市民社会から排除された存在となり、自立への道が閉ざされてしまうことになるのです。

5、「架空登録」「虚偽・違法登録」としても問題は何も解決しません。

住民基本台帳法が、固定した住居をもつことができない状態にある市民を、当該法制度の中に包摂しえるものとして制定されていないのであれば、それは法制度自体の不備に他なりません。一部の市民が法制度の枠外に置かれてしまうことは、法治国家として望ましい姿ではありません。このことを見ずに、そのような状態にある市民が住民登録できる対策がない現状を前提として、「違法」「架空」「虚偽」とすることは、なんら問題の解決には近づきません。また、2002年に制定され、日本において、まさに住民基本台帳法が予定しない、固定した住居をもつことができない状態にある市民が多数存在することを国として認め、その対策が国民の課題であることを宣言した、ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法の精神に反し、ソーシャルインクルージョンの社会的流れに逆行するものです。

問題は、法制度が予定している状態と現実にある状態との乖離が、法制度によって包摂されるべき同一社会の中に厳然と存在していることを認めることから出発しなければなりません。

6、 問題の本質は基本的人権の問題であり、それが侵害されている状態の解決こそが必要です。

今回大阪市が発表した住民登録問題の本質は、「雇用保険手帳の取得」にのみ矮小化されるべきではなく、固定した住居をもつことができない状態にある人々の市民的権利はいかにして守られるべきかという、根本的な市民権・人権の問題に他なりません。「住民基本台帳法は、そのような人たちの存在を予定していないから、居住実態のない場所での住民登録は違法である」とするならば、早急にその人たちに住居を与え、「合法的に」住民登録することが可能となる方策をとるべきです。私たちが望むものも、住民基本台帳法の改正や弾力的運用ではなく、基本的人権の侵害そのものである野宿生活を余儀なくされる状態から脱し、堂々と住民登録できる安定した住居と、それを支える安定した就労・福祉が確保できる状態を、制度として確立していくことにあります。

両法人は、その制度の確立に向けて、現状を批判することのみにとどまるのではなく、国や地方自治体と協働して実現していこうとするものです。今回の住民登録問題を、「居住実態のない者に対する住民登録の是非」の問題にしてしまうのではなく、日本におけるホームレス問題の根本的な課題として、その解決のために努力していきます。

以上の趣旨をご理解していただき、皆様のさらなるご支援を求める次第です。

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