テキスト ボックス: 「野宿生活者自立支援法」成立後の
実効ある施策の実現を求めて

 

 

「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」成立後の、初めての関連国家予算がどの程度の規模になるか注目されていたが、厚生労働省が要求した平成15年度のホームレス対策予算は34億円であることが明らかとなった。その内容は以下の通り。

◎ホームレス対策予算(要求)

.ホームレス総合相談推進事業(3.8億円:新規事業) 
 ホームレスを多く抱える地域において、行政、支援団体、地域住民等で構成するホームレス総合相談推進協議会を設置し、ホームレス問題に関する協議・調整、総合相談の企画等を行うとともに、相談計画に基づく巡回相談活動等を実施することによりホームレスの自立を支援する。

.ホームレス自立支援事業(10.3億円)
 ホームレスに対し、宿所及び食事の提供、健康診断、生活相談・指導等を行い、公共職業安定所との密接な連携の下で職業相談・紹介等により、ホームレスの就労による自立を支援する。 16ヵ所(定員 1,900人)

.ホームレス緊急一時宿泊事業(シェルター事業)(9.8億円)
 都市公園等でテントを張り・小屋掛けにより生活するホームレスに対して、緊急一時的な居住場所を提供することにより、ホームレス自身の健康状態の悪化等を防止することにより、ホームレスの自立を支援する。 3,100人分

.ホームレス能力活用推進事業(44百万円)
 一般雇用施策の中での対応が困難な者に対して、都市雑業的な職種の情報収集・提供等を行う事業を創設し、ホームレスの自立を支援する。5ヵ所

.ホームレスの自立の支援等に関する職業相談員の配置(2.1億円)
 自立支援センターに、公共職業安定所から職業相談員を派遣し、ホームレス自立支援事業と連携を図りつつ、きめ細やかな職業相談等を行う。
 さらに、ホームレスとなることを防止するため、ホームレスとなるおそれのある者が多数存在する地域を管轄する公共職業安定所に職業相談員を配置して同様に相談・援助業務を行う。

.ホームレス等試行雇用事業(2.4億円:新規事業)
 自立支援センターに入所しているホームレスや常用雇用を希望する日雇労働者を対象に、短期間試行的に民間企業に雇用してもらうことにより、ホームレス等の新たな職場への円滑な適応を促進し、常用雇用への移行につなげる。試行雇用実施事業主に対しては奨励金を支給する。

.日雇労働者等技能講習事業(4.6億円)
 日雇労働者及び自立支援センターに入所しているホームレスに対し、職場で必要とされる技能・資格を習得させ、就労機会の確保を図るとともに常用化の促進を図る。

予算要求額34億円は、14年度の総額13億円と比べると2.5倍に増えてはいるものの、なお不充分である。しかもその内容は、自立支援センターの運営を行う自立支援事業と、都市公園対策のシェルター事業とで6割(20.1億円)を占めており、これらの事業を主とした既存事業「当面の対応策」の拡充が中心となっている。

平成11年5月に、政府の「ホームレス問題連絡会議」がまとめた「当面の対応策」をもとに、大阪に3箇所の自立支援センターが設置されているが、これまでの3施設合計の入所総数は1,117人、退所総数878人、そのうち就職した人は約4割の344人である(いずれも平成14年7月末現在の人数、大阪市による)。これは、3施設が実際に稼動を始めた平成13年1月〜14年7月の19ヶ月で単純に割ると、1ヶ月あたり18人、1年間で216人が就職した計算になる。この数字は、1万人を超える大阪市の野宿生活者に10年かかっても対応しきれず、自立支援センターやシェルターのみでは問題の解決にはならないことを示している。

なお、新規事業としては、「ホームレス総合相談推進協議会」の設置による相談活動等の実施や、民間企業での試行雇用事業があげられている。

国土交通省は、「自立可能となったホームレスに対する住宅対策」として、民間賃貸住宅の空家情報の提供や公営住宅の活用等の対策をあげているが、一般施策の予算内で行うとしている。

去る9月10日には、釜ヶ崎支援機構、野宿者・人権資料センター等の全国各地の8団体は、厚生労働省と国土交通省へ陳情を行い、各地の現状を説明した上で、就労支援を中心とした対策を進めるよう要望した。支援法による具体的施策を求め、新たな公的就労の仕組みを作るべく、今後も関係省庁や大阪府、大阪市等へ働きかけていきたい。