野宿生活者問題,実態と自立支援
平成14年6月7日
大阪府立大学社会福祉学部
中山 徹
はじめに
野宿生活者は、大都市だけでなく、全国的広がりを見せている。
自立支援センター設置を柱とする国レベルでのホームレス対策が実施され、「特別措置法案」の動きがある中で、今「自立」支援と地域生活支援のあり方が問われてきている。
社会的援議を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会「社会的援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会報告」において、「ホームレス』などを社会的排除と捉え、その社会的包含(ソーシャル・イン・クルージョン)について提起し、地域の中で考えていくべき問題として位置づけている。
1.野宿生活者(ホームレス)とは
(1)増加する野宿生活者(ホームレス)
大都市のみならず地方都市でも増加している。
大阪府大調査、大阪市大調査、北海道旭川市調査(北大)、広島市調査、和歌山市夜回りを通して、
(2)野宿生活者という用語について
・日本の「ホームレス」の定義
「いわゆる「ホームレス」の厳密な定義は困難であるが、ここでは、失業、家庭崩壊、社会生活からの逃避等様々な要因により、特定の住居を持たずに、道路、公園、河川敷、駅舎等で野宿生活を送っている人々を、その状態に着目して「ホームレス」と呼ぷこととする」
「措置法案jの定義
・国際的には非常に狭い概念…大阪市・大阪府「野宿生活者」、東京都「路上生活者」
路上で生活している人…台湾−「遊民」、香港、韓国−「露宿者」、
・イギリス−「ラフ・スリーパー」(野宿者)で「ホームレス」とは区別
2.野宿生活者の諸相−労働・生活と今後の生活のあり方について
府大都市福祉研究会『大阪府にひろがるの宿生活者」2001年度大阪府内の宿者調査報告書−」より
(1)労働と生活
・基本的属性単身男性、平均年齢55議、
・出身地は、全国的広がりをみているものの、近畿圏がもっとも多い。
・地元に生活基盤を有していた人々が多く、すべて「よそもの」という見方は一面的。
・労働…廃品回収(アルミ缶・・キロ80円程度)…収入は、多くて5万円程度。
・食事…自炊型
・健康…結核などを含め、健康を害している人も少なくない。
・家族…家族との関係は壊れているものが多い。
・その他…
・テント型・移動型
(2)野宿生活者の形成
・調査結果より、失業などの『社会的理由」により直前職を退職した人々が多く。
・野宿直前、比較的安定的な居住にしたものも少なくない。
・野宿直前・日雇労働が多いものの、「常用」もすくなくない。
・最長職・・「常用」が多い。
・社会保障制度などのセーフティーネットからの排除
(3)野宿生活者自身の考える今後の展望とその可能性
・今後の展望からみた野宿生活者の「類型」とその現実的可能性
(4)野宿生活者の東京都・大阪市調査との比較
3.イギリスとアジア先進国におけるホームレス問題の経験から
イギリス・・・「ホームレス」約10万人、路上生活者ロンドン357人程度。
社会的排除委員会(Social Exclusion Unit)の中に野宿者委員会(Rough Sleepers
Unit)を設置・・2002年3月までに1/3という目標達成、B&B居住者などに対象とした新戦略を公表。
イギリス・住宅法(Housing Act1977、1996、Homelessness Act2002年)による規定と改正
◎現在の野宿者の救済◎元野宿者の生活の再構築◎薪たな野宿者の発生の予防
韓国…約1万5千人:ただし路上は400〜500人程度。支援施設の設置。
官民のパートナーシップ。
生活保護法から「国民基礎生活保障法」へ、「失業扶助」などの導入
4.「野宿生活者」に対する支援施策
(1)社会保障制度とその限界
雇用保険−長期失業に対応していない。
年金問題−多くの野宿生活者は漏れている。・野宿者と「年金権」問題。
医療保険・・緊急医療と無料低額診療事業…。
生活保護制度とその運用の現実
稼動年齢にある人々に対する対応、「どや」を住居と認めるかどうかなど、
野宿生活者に対しても、生活保護適用を行うよう・・指導(平成13年3月など)
・住宅政策家賃(補助)に関する支援策の欠落。
・65歳未満層に対する施策の不充分性。
・「特別措置法」の動き…「支援」、「実態・調査」、「予防」と「排除」。
「福祉国家」ではなく…「ワーク国家」?として日本。
(2)野宿生活者に対する施策としての「自立支援センター」とその現実
・ホームレス問題連絡会「ホームレス問題に対する当面の対応策について」
・ホームレスの自立支援方策に関する研究会「ホームレスに対する自立支援方策について」
・自立支援センターを柱とする施策の展開/質量の問題/今年度3つ新設?、市以外の対応。
・生活保護が機能しているのか…自治体による大きな運用のばらつきと「指導」の
・自立センター退所後…ほんとうに自立できているのカ
入所中の問題/出口問題としての居住・就労問題・・狭い労働市場と就労継続問題。
「ケアの継続」(アメリカ)、「フローティング・サポート」(イギリス)の必要性
ケアの継続性・・「新たな公」との関係。
・生活保護だけで解決するのか
5.「社会的排除」から「ソーシャル・インクルージョン」へ
・現在の野宿者を救済すること
・再び野宿者に戻さないこと(=野宿者の生活の再構築)
・新しい野宿者を出さないこと
その仕組みをどのように作り上げ、機能させるのか・・制度的問題の根幹に関わる
・地域住民との関係…「地域住民」と「市民社会」
・自立と地域生活支援のあり方
別紙資料
資料1 全国のホームレスの状況について(厚生労働省、平成13年12月8日(概数調査結果)
1 調査の概要
指定都市、中核市及び都道府県(指定都市、中核市を除く管内市町村を対象において、平成13年9月末現在で各地方自治体が把握している直近の状況(地方自治体により調査時期、方法等は異なる)の報告を求め、これを集計したものである。
2 調査の結果
今回調査 (平成13年9月末) |
前回調査 (平成11年10月末) |
|
全国のホームレス数 | 24,090人 | 20,451人 |
東京都23区 | 5,600人 | 5,800人 |
指定都市 | 13,381人 | 12,826人 |
中核市・県庁所在地 | 1,684人 | 706人 |
その他の市町村 | 3,425人 | 1,119人 |
(注)今回調査の時期は概ね平成13年8月〜9月の時期に集中しているが、大阪市については平成10年8月現在の人数である。
【参考】
今回調査では、前回報告がなかった288市町村から新たに報告されている。
今回調査 (平成13年9月末) |
前回調査 (平成11年10月末) |
|
前回報告があった市区町 (132市区町) |
21,735人 | 20,451人 |
今回新たに報告のあった市町村 (288市町村) |
2,355人 |
資料2 各都市別のホームレスの概数
地方自治体名 |
今回調査 (平成13年9月末) |
前回調査 (平成11年10月末) |
|||
5都市計 | 17,081人 | 17,174人 | |||
東京都23区 | 5,600人 | 平成13年8月 | 5,800人 | 平成11年8月 | |
横浜市 | 602人 | 平成13年8月 | 794人 | 平成11年8月 | |
川崎市 | 901人 | 平成13年7月 | 901人 | 平成11年7月 | |
名古屋市 | 1,318人 | 平成13年5月 | 1,019人 | 平成11年5-6月 | |
大阪市 | 8,660人 | 平成10年8月 | 8,660人 | 平成10年6月 | |
その他指定都市計 | 1,900人 | 1,452人 | |||
札幌市 | 68人 | 平成12年12月 | 43人 | 平成11年11月 | |
仙台市 | 131人 | 平成13年8月 | 111人 | 平成11年10月 | |
千葉市 | 123人 | 平成13年8月 | 113人 | 平成11年8月 | |
京都市 | 492人 | 平成12年6月 | 300人 | 平成11年10月 | |
神戸市 | 341人 | 平成13年8月 | 335人 | 平成11年8月 | |
広島市 | 207人 | 平成13年2月 | 115人 | 平成11年11月 | |
北九州市 | 197人 | 平成13年8月 | 166人 | 平成11年11月 | |
福岡市 | 341人 | 平成13年8月 | 269人 | 平成11年8月 | |
中核市及ぴ県庁所在地の市 (38市) |
1,684人 | 706人 | |||
(※) |
前回報告があった市(24市) | 1,357人 | 706人 | ||
今回はじめて訓査した市(14市) | 327人 | ||||
その他の市町村(347市町村) | 3,425人 | 1,119人 | |||
(※) |
前回報告があった市町(73市町) | 1,397人 | 1,119人 | ||
今回新たに報告のあった市町村 (274市町村) |
2,028人 | ||||
合計(420市区町村) | 24,090人 | 20,451人 | |||
前回報告があった市区町 (132市区町) |
21,735人 | 20,451人 | |||
今回新たに報告のあった市町村 (288市町村) |
2,355人 |
注1 前回報告があったが、今回報告がなかった地方自治体は、前回報告の人数を計上。
注2(※)印を付した市町村のうちホームレスの数が30人を超える市町村は次表のとおりである。
資料3
ホームレス問題連絡会議「ホームレス問題に対する当面の対応策について」より
国の政策
(3)ホームレスの類型別のきめ細かな施策体系の構築
ホームレスを野宿生活に至った要因別に大別すると次のとおりとなる。
@ 就労する意欲はあるが仕事がなく失業状態にある者
・産業構造の変化や不況等による日雇労働の雇用機会の減少、高齢による
就労機会の減少
・リストラ、会社倒産等による常用労働者の失業等
A 医療、福祉等の援護が必要な者
・アルコール依存症の者
・身体的・精神的に何らかの疾患を有する者
・高齢者、身体障害者等
B 社会生活を拒否する者
・社会的束縛を嫌う者
・諸般の事情から身元を明らかにしない者等
以上のような分類別に自立支援対策を体系化したものが である。なお、ホームレスの多くは様々な要因が複合的に絡み合って発生していると考えられることから、個々のケースごとに適切な対応を図る必要がある。
資料
ホームレスに対する基本的な生活保護の適用について
『社会・援護局保護課別添資料(5頁)』
(2001年3月2日全国自治体の生活保護担当者会議資料より)
1.はじめに
ホームレスに対しては、ホームレスに至った原因や抱える問題など、その状況が様々であることから、その状況に応じて対応することが必要である。
そのため、まずは、各地方自治体においてホームレスの状況を十分把握することが重要であり、また、ホームレスの状況に応じて適切に対応するためには、生活保護を含む福祉施策だけでなく、自立支援センターの設置や緊急一時宿泊所等の確保による対策、雇用対策、公営住宅等の住宅施策等の総合的な対策が必要である。このため、ホームレスの問題への対応に当たっては、生活保護担当部局だけではなく、地方自治体内部の他の部局や他の地方自治体、関係機関との連携体制を整備する必要がある。
2.生活保護の適用の基本的な考え方
生活保護制度は、資産、能力等を活用しても、最低限度の生活を維持できない者、即ち、真に生活に困窮する方に対して、必要な保護を行う制度である。
よって、ホームレスに対する生活保護の要件については、一般世帯に対する保護の要件と同様であり、単にホームレスであることをもって当然に保護の対象となるものではな<、また、居住地がないことや稼動能力がないことのみをもって保護の要件に欠けるものではない。
3.保護の方法
(1)要保護者に対する基本的対応
就労の意欲と能力はあるが失業状態にあると判断される者については、その地域に自立支援センターがある場合には、まずは自立支援センターヘの入所を検討する。また、アルコール依存症や精神的・身体的疾患を有する者、高齢者及び障害者等については、その生活状況等の十分な把握や自立に向けての指導援助が必要であることから、保護施設への入所や、治療が必要な場合は医療機関への入院等による保護を行い、療養指導、金銭管理能力及び生活習慣の回復等を図り、自立を支援する。
そのため、地方自治体においては、ホームレスの現状等を踏まえ、積極的に保護施設の整備に取り組む必要があるが、直ちにその整備が困難な場合は、臨時的に、施設運営に支障がない程度に定員を超過して入所させることもやむを得ないものである。
自立支援センターに入所し就労努力は行ったが、結果的に就労による自立に結びつかず退所した者は、あらためて保護の要件の確認を行い、必要な保護を行う。また、保護施設に入所し生活管理能力が得られ入所の目的が達せられた者は、公営住宅等を活用し、居宅での保護に移行する。
なお、当然のことながらホームレスの状況によっては、養護老人ホームや各種障害者福祉施設等への入所も検討する。
(2〉急追保護
病気等により、急追した状態にある者については、申請がなくとも保護すべきものであり、その後、退院等が可能となった場合には、要保護者の保護受給の意思確認を行い、保護の申請(保護の変更申請〉が行われたときには、保護の要件を確認した上で、必要な保護を行う。
退院等については、その回復状況にもよるが、基本的には、上記(1)により対応する。
4 留意事項
(1)自立支援センターの入所者について
自立支援センターの入所者については、入所中の生活は自立支援センターで保障されており、生活保護の適用は必要ないものである。ただし、治療が必要な場合は、医療扶助を速用することとなる。
(2)その他 上記3の方法によるほか、各地方自治体が地域の実情に応じて種々の取組みを行うことも極めて重要であると認識している。そのため、このような取組みを実施する地方自治体におかれては、あらかじめ、厚生労働大臣あて情報提供願いたい。