雇用対策の基本的な考え方

輪番就労を軸にしながらも、就労先の多様化を
 

 2002年、「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」成立と03年の国の「基本方針」策定の狭間で、釜ヶ崎支援機構は、法で基本方針によって策定されるべき事項の第一に掲げられている「就業機会の確保」について、具体的な方策を検討していた(図参照)。

 

 2002年当時で、大阪市内野宿者総数を11,000人と推定し、更に、1998年に実施された大阪市立大学都市問題研究会の聞き取り調査や夜間宿所のアンケート調査などを参考に、野宿期間1年以上以下、年齢45歳以上と以下を組み合わせ、4グループの推定人員を算出した。

 雇用対策の基本的な枠組みは、年齢が若い層については、自立支援センターで対応し、中高年齢者については、輪番就労に吸収したのち、職業相談・訓練などの長期的な取り組みによって、輪番就労から卒業してもらうということで考えた。

 輪番就労の規模は、登録総数を6,400人と想定、1日当たりの必要就労数を3,200人とすれば、準備に3ヶ月かけ、半年も事業実施すれば、1年後には、大阪市内の野宿生活者は半分以下になるはずであった。3年後には、ほとんどゼロに・・・。

 しかし、現実は厳しく、2004年度で、国の緊急地域雇用創出交付金事業は終了し、釜ヶ崎の輪番就労は、大阪府・大阪市の予算負担で残ったものの、1日当たりの就労数は、拡大どころか縮小となってしまった。大阪府・大阪市の努力は多とするものの、野宿生活者にとっては、不満な現状といわざるを得ない。

 国の緊急地域雇用創出交付金事業終了後の、野宿生活者の雇用対策として、2005年度から新たに国予算で開始されることとなった事業が、「ホームレス就業支援事業」であるとされている。予算規模は、全国4地域分で145,000,000円。事業の内容は、「野宿生活を余儀なくされているホームレスのうち就業意欲のある者を対象に、ホームレスの就業ニーズに合った仕事の開拓・提供、就業支援相談や職場体験講習を実施し、就業による自立を支援する。」というものである。

 大阪では、「大阪ホームレス就業支援センター運営協議会」が国からの委託を受け、「大阪ホームレス就業支援センター」を運営することになっている。

「大阪ホームレス就業支援センター運営協議会」を構成する組織は、大阪府・大阪市・(財)西成労働福祉センター・(社福)大阪自彊館・(社福)みおつくし福祉会・(社福)みなと寮・連合大阪の7者。

事業内容としては、次の4つが掲げられている。

@就業支援相談事業 就業に関する相談・指導等に関すること。委託先=釜ヶ崎支援機構

A職業開拓事業 求人開拓、求人情報収集、職場体験講習受入事業所等開拓、仕事開拓(企業からの請負受注、内職仕事、公共施設管理者等からの受託仕事)及び企業啓発に関すること。委託先=大阪自彊館(自立支援センター西成)・みおつくし福祉会(自立支援センター大淀・自立支援センター淀川)・みなと寮(自立支援センター堺)・釜ヶ崎支援機構

B就業支援事業 就業機会の提供及び求人情報等の提供に関すること。委託先=釜ヶ崎支援機構

C職場体験講習 事業所等で実際に就業することを体験することにより、就業することに対する不安の解消及び就業意欲等の助長等を図るもの。講習と就業機会の提供の組み合わせで、講習期間中受講者は、1日当たり3,000円の受講手当と交通費実費が支払われ、講習に引き続く就業期間については、事業所から賃金が支払われる。事業所には、1回の提供について、3,000円ないし6,000円の奨励金が支給される。

釜ヶ崎支援機構では、今回事業受託にあたり、事業遂行に必要な条件として、「無料職業紹介所」の許可を受ける準備を進めている。また、事業実施場所として、「あいりん職安南分庁舎」の無料使用をお願いしている。

「あいりん職安南分庁舎」について、939月、釜ヶ崎反失業連絡会が大阪府・市に提出した要望書の中で、以下のように要望していた。

「Aあいりん職安南分室の現在の職務の上に、次の機能を加えられたい。

 イ・軽作業紹介窓口を開設されたい。

 軽作業紹介窓口は登録制、且つ輪番制とし、発足当所において最低一日五百人分の職業紹介を確保するよう努めること。その後、登録数に応じ最低二日に一度就労保障できるよう大阪府が府下自治体へ協力を要請し、求人数の確保に努めること。賃金日額については、現行雇用保険一級印紙貼付を目標とすること。各自治体などでの就労の場合、雇用保険印紙貼付については、スタンプ代用などを考慮すること。

 ロ・分室敷地に高齢労働者支援センターを建設、以下の業務をおこなうこと。

  ○自分たちで就労先を開拓し、仕事を回しあっている労働者グループについて、事務・連絡場所を提供し、小なりといえども企業活動となるように援助・育成する。

  ○内職的共同作業場を設け、運営をおこなう。

  ○年金その他社会福祉制度活用についての相談業務。

  ○仕事以外での社会参加の可能性を広げるためのボランティア養成講座など、高齢労働者の能力拡充のための成人学級の運営。」

 1993年から2005年まで、12年。釜ヶ崎反失業連絡会の要望が、どの位、現実化するかどうか、釜ヶ崎支援機構の努力にかかっているという事態になった。

 輪番就労拡大を基本としながらも、多様な就労先確保に向けて、努力しなければならない経緯があるということだ。それはまた、多くの野宿生活者の要望に添うことでもあると考える。

 そのために、新しい試みもしてみたいと考え、近く実行に移す。西成区7万世帯に、求人と求職のアンケートを配布し、そのマッチングをおこなう。

 たとえば、職能を持ち、生きがい就労を求める人には、ジョブコーチとして参加してもらい、野宿生活者の就労現場で指導してもらうことによって、野宿生活者が新しい職域で働くことが出来るし、新たな職能を身に付けることができる。既存の就労域では満足できないニートも集まってくるかも知れない。後継者を捜している個人商店があれば、見習いとして受け入れてもらう。そのさい、現在野宿を余儀なくされているかどうかに関わりなく、職を求める人すべてを対象として受け入れる。そのことによって、多様な質の組み合わせが可能となり、起業の可能性も高まると考えるから。

冒頭に紹介した2002年構想の調整期・分類期・整理期の中身をすべて同時にやるということになるとまどいはあるが、釜ヶ崎反失業連絡会や釜ヶ崎支援機構が、自ら提起したことでもあるのだから、責任を持って、取り組まなければならないし、そうしてるつもりではある。

「仕事」の開拓について、体験や案が有れば、ご教授頂ければありがたい。全国の事例報告を、心待ちしています。よろしく。