10)野宿期間長短比較

 

 

 初回相談時に申告された野宿期間によって、野宿期間6ヶ月未満を短期野宿とし、3年以上を長期と見なした。ただし、6ヶ月未満については、直前住居「病院」や明らかに初回相談以前にも相当期間の野宿期間があると思われる再野宿ケースは、できる限り外す努力をした。3年以上については、記録のまま受け取った。

 巡回相談事業は丸6年間実施されている。野宿期間3年以上のものが、初回相談に現れる比率が年々低下しているのは当然のことと受け取られる(表10-1、図10-1)。

 しかし、再面接でいえば、2005年再面接人員1,673人に対して野宿期間3年以上は802人(47.9%)で、長期野宿者の割合は決して低いとはいえない。

 新規面接の中では、長期野宿の占める割合は減少し続けているが、短期野宿の占める割合3割程度で一定し、中期間野宿が長期野宿の減少分を補っていることになる。再面接の中では長期野宿の割合が高いことは、中期間野宿の長期固定化傾向を示すと考えられるが、野宿生活者総数が減り続けているとするなら、長期固定層のみの残留化傾向が強まっているということになる。

 

10-1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 野宿期間が長い短いで年齢構成を比べると、60歳以上は、短期野宿より長期野宿に占める割合が、どの年を見ても高い(表10-210-3)。

 長期野宿の60歳以上は、200044.8%であり、2005年は、33%である。

 短期野宿のそれは、27%と20.7%である。

 50歳代は、長期野宿では、200043.1%であり、2005年は、48.1%、短期野宿のそれは、40.7%と42.8%である。60歳以上ほどには長短で構成比はさほど変わらないといえる。

 50歳未満は、長期野宿では、200012%であり、2005年は、18.8%、短期野宿のそれは、32.4%と36.5%である。50歳代がほぼ長短で変動がないのであるから、50歳未満は、当然のことながら、60歳代以上とは逆になっている。

 60歳以上は長期野宿に定着する割合が高く、50歳代後半の加齢によって追加される。50歳代後半は、やはり野宿に定着する割合が高く、しかも常に同年代で追加されている。50歳以下は、流動性が高い。このように見ることができるであろう。

 

 

 

 

 

 

 

10-2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10-3

 

 

 

 

 

 

 

 

 野宿以前の職種については、年々「不明」の割合が増える傾向にあり、その不明の振り分けによって、読み取り方も変わる可能性があるが、今回は、除外して読み取ることとする(10-410-5)なお、表中「会社員」「パート・アルバイト・派遣」「主婦・家事手伝い」「自営」は職業区分とはいえないが(ちなみに、国勢調査の大分類は以下の通り「専門的・技術的職業従事者/管理的職業従事者/事務従事者/販売従事者/サービス職業従事者/保安職業従事者/農林漁業作業者/運輸・通信従事者/生産工程・労務作業者/分類不能の職業」)、今回の目的は、厳密な職業区分によらずとも、どのような仕事、働き方をしていたかがわかれば達せられると考えられるので、相談記録に沿った区分のままとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 野宿前の職業が、「土木建設関係」であるのは、全新規相談数から野宿前職業不明を引いて計算すると63.6%になるのであるが、短期野宿の中で占める割合は52.3%(総計欄)であり、長期野宿の中では、748%を占めている。

他の職種では、軒並み短期野宿から長期野宿に至る過程で減少していることになるが、「製造」の減少幅はきわめて小さい。

野宿前職業が、現業職であり、50歳代で野宿となったものが、長期野宿化する傾向にあるといえよう。

 

 職業ごとの年齢区分を見ると(表10-6)、60歳以上は、全ての職種で長期野宿のほうが、短期野宿よりも占める割合が高くなっている。短期野宿よりも長期野宿において、60歳以上の占める割合が高いのであるから、当然といえるが、60歳代の「自営」の横ばいと無職の減を除いて、軒並み占める割合が高くなっている。

 50歳台は、全般的に占める割合に長短で変化は少ないが、「製造」が増加、「自営」と「港湾運輸」が減少している。

 40歳代では、「サービス業」が横ばい、「主婦・家事手伝い」が増加しているほかは、長期の中で占める割合が減少している。

 30代では、「警備・清掃」で、短期野宿から長期野宿で増加が見られる。

「土木建設関係」は、40歳代で短期から長期野宿の占める割合が減少し、50歳代で横ばい、60歳代で長期野宿に占める割合が短期野宿の倍となっているのだが、「サービス業」は、40歳代・50歳代と長短で構成比率が変わらず、「土木建設関係」よりも若い年齢で長期野宿となる傾向が伺える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 住居関係では、野宿期間の長い短いに関わりなく、飯場や寮、簡易宿泊所など元々不安定住居に住んでいたものが多い。短期野宿で「職+住」と「不安定住居」の合計は、53%を占めており、長期野宿では、69.5%を占めている。

職業別で見ると、野宿期間短いでは、「土木建設関係」が71%、「警備清掃」が41.7%、「パート・アルバイト・派遣」が52.3%となっており、これらの職種・雇用形態と不安定住居との結びつきが強いことを示している。(表10-7〜表10-10)。

 居住の質に対する要求が元々低かったか、元の居住の質が低く、相対的にテントの優位性が高いと感じられることが、テント・小屋生活への親和性を導き出しているとも考えられる。

 簡易宿泊所や飯場と「土木建設関連」の組み合わせの多さは、長期野宿でより際だっているが、この現象の読み取りには注意を要する。釜ヶ崎を経由した野宿生活者が、より長期野宿化しやすいということは動かしがたいとしても、野宿する以前には釜ヶ崎と縁がなかった野宿生活者が、野宿から逃れようとして釜ヶ崎の日雇い労働市場に参入し、一時的に簡宿生活を送り、再び野宿となるという環流構造が存在することは忘れられてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 20036月に、釜ヶ崎反失業連絡会の中之島野営地でおこなわれたアンケート調査(回答者501人、炊き出し平均人数710人をアンケート対象者とすると回収率は69.6%)では、直前職と失業保険受給(アブレ手当を除く)について質問している(表10-12)。

 直前職日雇いで雇用保険給付金を受給したもの14人の内、受給期間について回答のあったものは8人(1975年前後が3人、1984年が1人、1996年が1人、1990年が1人、2001年が1人)。これらの人が、雇用保険給付金の受給終了後、日雇いとして働き始める前に野宿していたという確証はないが、2001年に雇用保険給付金の受給終了後日雇労働市場に参入している人の存在は、「正社員」29人のうち何人かが日雇労働市場に参入する可能性があることを示すものであり、環流構造が散在するとの指摘が、不適切であるとはいえないであろう。

 釜ヶ崎の日雇労働市場は、年数ヶ月、失業あるいは野宿生活者の受け皿として、以前ほどではないにしても機能している。それはしかし、「問題」を解決するのではなく、一時的に緩和し、解決を先送りすることにしかならない。なぜなら、人の加齢は押しとどめることができず、結局、高齢野宿の問題としてあらわれざるをえないのであるから。そのことは、釜ヶ崎のこれまでの歴史が証明している。

 

 10-12

 

 


 

 以上の検討から、今後の野宿生活者の動向を占うことはできるであろうか。

 失業率の増大が、野宿生活者の増大にリンクしていた事態は、収まりつつあるかのように見受けられる。

「平成18年版 労働経済の分析−厚生労働省」では、「雇用失業情勢は、厳しさが残るものの、改善に広がりがみられる。完全失業率は高水準ながらも、低下傾向で推移し、賃金も緩やかに上昇している。また、個人消費も緩やかに上昇している。」としながらも、「このように雇用の増加や賃金の改善がみられるが、景気回復の成果が労働者に一律に配分される姿は次第に変わってきており、就業形態の多様化が進展しているほか、賃金制度では業績・成果主義の広がりがみられる。」と、新たな不安についてふれている。この新たな不安は、野宿者問題にどう影響するのであろうか。

 とりあえず、野宿期間の短い長いにかかわらず、占める割合の高い「土木建設関係」についてみると(表10-11)、「雇用者数(前年同期比)に対する産業別寄与をみると、2003 年以降、医療,福祉、サービス業の雇用者数へのプラス寄与が大きくなっている。他方、建設業ではマイナスの寄与が続いている。」とされており、雇用は伸びる傾向は見せていない。

 野宿生活者の動向に直接関係があるのは、釜ヶ崎を経由して土木建設産業で就労する日雇労働者への求人動向であり、新規流入の動向、日雇労働者の高齢化の問題である。

 

10-11

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国土交通省の平成17年度版白書によれば、

建設業は、国民生活の質の向上及び国民経済の発展の基盤である住宅・社会資本整備の直接の担い手であるとともに、国内総生産・全就業者数の約1割を占める重要産業の一つであるほか、特に地方部において多くの就業機会を提供することにより、雇用の確保に大きく寄与するなど、地域経済においても大きな比重を占めている。建設投資を見ると、平成17年度の見通しは約51.3兆円で、ピークであった4年度(84.0兆円)と比べると約4割減少している。一方、建設業者数(許可業者数)を見ると、173月末は562,661業者で、53月末(530,655業者)と比べると6.0%増加している。このように、建設業は、深刻な過剰供給構造となっており、受注の減少、利益率の低下により厳しい経営環境が続いている。

 加えて、産業全体では収益力の回復が着実に進んでいるにもかかわらず、建設業は過当競争の影響から収益力が引続き低迷しており、平成16年度の売上高営業利益率及び同経常利益率は、それぞれ1.7%、1.8%と、4年度(3.8%、3.2)の約半分の水準にとどまっているほか、16年度の全産業の平均(3.1%、3.1)を大きく下回っている。」

 

そのような状況であるにもかかわらず、釜ヶ崎においては、年間数ヶ月ながら、求人の拡大が見られ、労働者の仕事への期待感は薄れることなく、中高年求職者を釜ヶ崎の日雇労働市場に引き留める効果あるいは吸引条件となっている。

白手帳所持者の数の激減に示されているように、年間を通じて日雇い労働によって生活を維持できる層は減少しているにもかかわらず、日雇い労働を見切って他に職を求める展望がないことから、「半野宿・半就労」の形で、釜ヶ崎あるいはその周辺に停滞する人々は、今後も皆無となることはないであろう。

「土木建設関係」に次いで多いのは、「サービス業」である。

「サービス業」といえば、産業分類では「宿泊設備貸与業、広告業、修理業、興行業、医療保健業、宗教・教育・法務関係など、非物質的生産物(サービス)を生産するあらゆる業務」ということになっているが、働いていた側が働いていた業種を問われて「サービス業」という場合は、接客業務(サービスの提供)をおこなっていたということに等しいと考えられ、ホテルで働いていた、ローソンで働いていた等も含まれていると考えられる。ちなみに、インターネットの転職サイト「リクナビ」では「サービス・販売系」とまとまられて、「小売、外食、アミューズメント関連(228件)・理美容、エステ関連(19件)・旅行、ホテル、ブライダル関連(70件)・運輸、配送、倉庫関連(27件)・警備、清掃、設備管理関連(45件)」の求人情報が紹介されている。

 「野宿期間短い」の中で、「サービス業」は、「パート・アルバイト・派遣」に次いで39歳以下の占める割合が高く(19.1%・表10-6)、住居についていえば、寮・社宅などの「職+住」と間借り・同居等の「不安定住居」の割合が、「製造」と同程度にあり(表10-9)、「会社員・管理・事務」よりも高い。「サービス業」の雇用形態は、「パート・アルバイト・派遣」に含まれるものが多いのでは無かろうかと思われる。

 

 

経済産業省の「人材ニーズ調査(2004年)」によって、求人数における年齢別の構成比を見ると、25-29歳の40%を頂点として、高齢になるほど減少している。40-44歳で、20%を占めるに過ぎない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この求人動向は、短期野宿と長期野宿の年代の構成比変化を説明しうるものであると考えられる。長期野宿に占める49歳以下の割合は、短期野宿の中に占める49歳以下の割合よりもかなり低い(表10-210-3)。問題は、これらの長期化しなかった49歳以下の人々が、将来にわたって再野宿とならないと予測できるかどうかである。

土木建設産業関係で働いていた人が野宿生活者の中に占める割合が高く、とりわけ日雇いという雇用形態で働いていた人々が多いことは、これまで検討してきた中で確認されたところである。景気や季節変動で就労機会が安定せず、加齢によっても就労機会が狭まることが、野宿に至る大きな要因である。

この特徴は、長く土木建設関係と中小零細の製造に見られたものであったが、今や全産業に及んでいる。

 

『(製品ライフサイクルの短縮化や生産変動の不確実性の増大を背景にした請負労働の活用)/物の製造を行っていると思われる事業所(工場)や職場を対象とした電機総研「電機産業における請負活用の実態に関する調査」(2003 年)により、その活用実態をみることとする。先ず、製品のライフサイクル別にみた事業所の人員総数(正社員、パートタイマー、派遣労働者、請負労働者を合計した人数)に占める請負労働者比率は、製品のライフサイクルが「数ヶ月」の事業所では、請負労働者の比率が20 %以上を占める事業所が7 割を超え、「半年程度」の事業所では5 割となっている。製品のライフサイクルが「1 年」を超えると、請負労働者の比率が20 %以上を占める事業所比率は2 3 割程度にとどまっている。また、生産変動の見通し別にみた請負労働者比率をみると、「ほとんどつかない」事業所では、請負労働者の比率が20 %以上を占める事業所が6 割を超えている(。製品のライフサイクルが特に短かったり、生産変動の見通しがつきにくかったりする事業所において、請負労働がより多く活用されていることが分かる。また同調査により、工場の就業者の構成を就業形態別にみると、近年新製品が頻繁に誕生している通信・電機機器や民生用電機機器を生産する工場では、生産請負に従事する就業者割合が高くなっている。

(産業により異なる派遣労働の活用)/厚生労働省「労働者派遣事業報告」により、常用換算の派遣労働者数の推移をみると、1997 年度には約34 万人であったが、増加傾向にあり2004 年度には89 万人まで増加した。その内訳を1997 年度と2004 年度で比較すると、一般派遣事業の常用雇用労働者数は約9 万人から約27 万人へ、登録派遣などの常用雇用以外の労働者数(常用換算)は約18 万人から約47 万人へ、特定労働者派遣事業の派遣労働者数は約7 万人から約15 万人へとそれぞれ増加している。

派遣労働の活用は、産業によってその活用の度合いは異なり、また活用する業務についても幅広く、活用に要する料金もその水準が異なっている。厚生労働省「派遣労働者実態調査」(2004 年)により、派遣先産業別に派遣労働者数の構成比をみると派遣労働者総数のうち、製造業が32.9 %、卸売・小売業が13.4 %、金融・保険業が13.3 %、サービス業が11.7 %を占めている。また、製造業のなかでも機械関連製造業の比率が特に高いことが分かる。平成18年版 労働経済の分析』

 

 請負労働者として、働く気になればいつでも働ける年代は、30代までであるといえる。

人材ニーズ調査によれば、人材派遣業種で過剰感のある年代のトップは45-49歳である。

請負労働者や人材派遣で働く人々の加齢による長期失業から派生する野宿問題への影響は、今後顕著になるものと考えられる。

政府は、偽装請負の摘発や若年労働者を正規雇用へと移行させる施策を打ち出すとしているが、採用する側の企業の意識は、野宿生活者の雇用問題に対する能都同様に突き放したもので、フリーターニートを正社員としてこだわらずに採用する企業は、23.4%にとどまっている。

しかも、与えられたチャンスは、35歳未満である。

短期契約で転職を繰り返す人々が、正規雇用の中に入り込むことは容易ではなく、結婚することもできず、単身のまま中高年齢期に突入する。

これはまさに、現在野宿生活者の多数を占める日雇い労働者たちが、かつてたどってきた道である。

今、多少の野宿生活者減少傾向が見られたとしても、このまま減少し続けるという展望を見いだせる社会状況にはないと見なさざるを得ない。

現状の野宿生活者への対策を見直すとともに、将来に備えた対策が構築されなければならないと考えられる。勿論、野宿予防が最重要であるが、野宿状態短期での対応の強化もますます重要となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(注) 1)1982 年、87 年、92 年、97 年については、フリーターを、年齢は15 34 歳と限定し、@現在就業している者については勤め先における呼称が「パート」又は「アルバイト」である雇用者で、男性については継続就業年数が1 5 年未満の者、女性については未婚で仕事を主にしている者とし、A現在無業の者については家事も通学もしておらず「パート・アルバイト」の仕事を希望する者と定義し、集計している。

2)2002 年から2005 年については、フリーターを15 34 歳で、男性は卒業者、女性は卒業者で未婚の者とし、@雇用者のうち勤め先における呼称が「パート」又は「アルバイト」である者、A完全失業者のうち探している仕事の形態が「パート・アルバイト」の者、B非労働力人口のうち希望する仕事の形態が「パート・アルバイト」で、家事も通学も就業内定もしていない「その他」の者としている。

3)1982 年から97 年までの数値と2002 年から2005 年までの数値とでは、フリーターの定義等が異なることから接続しない点に留意する必要がある。

いわゆる「ニート」に近い概念として、若年無業者を15 34 歳に限定し、非労働力人口のうち家事も通学もしていない「その他」の者と定義して集計すると、2005 年には64 万人と前年と同水準となった。これを年齢階級別にみると、24 歳以下の者は減少している一方で、25 歳以上の者は増加しており、その構成比はより高い年齢階級にそのウェイトを移してきて平成18 年版 労働経済の分析