2.大人(労働者)と子どもの関係

周知のように「釜ヶ崎」は日本最大の寄せ場であり、ドヤ街社会である。ここに居住する人口の半数は土木・建築の現場労働に就業する日雇労働者である。それ故、労働・生活のスタイルに独特のものがある。

更に日雇労働者の9割は単身の男子である。ある者は家族との音信の切れている者、故郷に家族を残している者、家族解体の結果、一人でいる者など様々な人生経歴をもった人々である。

他方「釜ヶ崎」には子供が少ないと云われる。実際、町中を歩いてみると、子供と女性の数が少ないことにすぐ気付く。「釜ヶ崎」地区の児童・生徒が通学する学校は萩之茶屋小学校と今宮中学校であるが、子供たちを取り巻く、家庭環境・社会環境は複雑で問題も多い。

今宮中学校ケースワーカー宮脇さんの報告によれば、欠損家庭が、極めて高いこと(26.3%)、保護・準保護家庭が多いことである。」と指摘されている。

同じ資料で今宮中学校生徒の親の職業をみると552名中日雇い5人(0.9%)、建築36人(6.52%)と、日雇労働者人口に比して随分、少ない。’大半は自営業(197人)、会社員(175人)が占めている。

この条件下で「釜ヶ崎」の大人(労働者)と子供はどうような関係にあるのだろうか。ここの労働者は地元出身の人を除いて地縁的・血縁関係を何も持っていない。このような労働者が子供と出会うのは三角公園や路地などの屋外であり、ゲーム・センターなどの遊戯場である。そこで友好関係が生れ、一緒に遊んだり、小遣銭を与えたりする。

逆にトラブルも生じる。労働者が公園を占拠して、子供が遊べないとか、酔っぱらった大人が子供をからかったり、逆に子供が酔っぱらって寝ている労働者やアオカン者(野宿者)をからかったり、いたずらしたりする。極端な場合には暴行事件が起きたりもする。

以下ではこの労働者と子供の関係に対する労働者側からの調査結果を示した。


(A)労働者と子どものつながり−対立の面

この点に関する質問は、@遊んでいる子どもをうるさいと思ったことがあるか(表3)A「子どもにおちょくられたことがあるか」(表4)の二つである。

まず「うるさい」と思ったかどうかについて全体の39人(27.3%)が「ある」と答えている。「世代別では60代と年令不明グループが各々4人(33%)、10人(34.5%)と平均より高率となっている。20代は1人(16.7%)と最低である。

表3−遊んでいる子どもをうるさいと思ったことがあるか。
  ある(%) ない(%) N.A.

20才代 1人(16.7) 4人(66.6) 1人(16.7) 6人(100)
30才代 4人(23.5) 11人(64.7) 2人(11.8) 17人(100)
40才代 11人(28.9) 24人(63.2) 3人(7.9) 38人(100)
50才代 9人(25.0) 26人(72.2) 1人(2.8) 36人(100)
60才代 4人(33.3) 8人(66.7) 0人(0.0) 12人(100)
70才代 0人(0.0) 5人(100) 0人(0.0) 5人(100)
不 明 10人(34.5) 16人(55.2) 3人(10.3) 29人(100)

39人(27.3) 94人(65.7) 10人(7.0) 143人(100)

「どんな時にそう思ったか」という問に対しては無回答が多いが、「ようけでさわぐとき」(男44才)「酒を飲んでいる時」(男51才)「けとぱしたりされた時」(男)などがあげられている。

表4について。「おちょくられた」経験のある者39人(27.3%)で、世代別には年令不明グループ、60代、20代が平均より高率となっている。ただ60代と20代では少し意味が違う様に思う。20代6人のうち4人は地元生れの青年であり、子どもたちとは良く知っている間柄にあって、「おちょくり」もいわば親愛の情の現れと解される。

全体として特に高令者が「おちょくられた」という傾向はみられないが、どんなようにという問に対して代表的答えはつぎのようなものである。

一つは「アホ」とか「ボケ」とか、通りすがりに悪口をいわれたりするケース。「公園で青カンしている時ビンを投げられた」(男30才)といった、物や爆竹など投げつけられるケースなどである。これらの子どもの行為は単なるいたずらに過ぎない場合もあろうが、心底に悪意に満ちているケースもみられる。

他方子どもが「おっちゃんのけというてくる」(男52才)というように遊ぶ場所が少ないことから生じたであろうケースもあげられていた。

以上「うるさいと思ったことがある」「おちょくられたことがある」いずれも39人という全体の約1/4強に当たる数値は他に比べる資料が手元にないので、高いのかどうか即断することはできないが、常識的にみて、労働者と子どもの関係が非常に良好であるとはいえない。

表4−子どもにおちょくられたことがあるか。
  ある(%) ない(%) N.A.

20才代 2人(33.3) 3人(50.0) 1人(16.7) 6人(100)
30才代 5人(29.4) 10人(58.8) 2人(11.8) 17人(100)
40才代 9人(23.7) 27人(71.0) 2人(5.3) 38人(100)
50才代 9人(25.0) 26人(72.2) 1人(2.8) 36人(100)
60才代 4人(33.3) 8人(66.7) 0人(0.0) 12人(100)
70才代 0人(0.0) 5人(100) 0人(0.0) 5人(100)
不 明 10人(34.5) 16人(55.2) 3人(10.3) 29人(100)

39人(27.3) 95人(66.4) 9人(6.3) 143人(100)

質問項目8の「子どもたちを見て一言(表11)という項で、「釜ヶ崎」の子どもは「恐い」「なまいきだ」「子どもらしくない」といったマイナス評価を表明している労働者が34人、「別に何とも思わない」と無関心を示している者13人おり、「かわいい」「元気だ」「素直」などプラス評価の27人を大きく上回っている。「おちょくられた」などの生活1体験からか、少くとも全体の1/3の労働者が「釜ヶ崎」の子どもに対しマイナス評価を下している。

表11子どもたちを見て思うことを一言(O.A)

(1)好意的評価(プラス=イメージ)27人
                        (元気だ、かわいい、素直だ、昔と変わらん、など)
(2)中間的評価41人
                        (別になんとも思わない)(13人)
                        (環境が悪い、遊び場所がなくてかわいそう、など)
(3)否定的評価(マイナス=イメージ)34人
                        (なまいき、たちよくない、ませている、など)
(4)その他、提言 14人
(5)N.A.27人
                    計143人


(B)労働者と子どものつながり−友好の面

この点に関する質問は以下の3項目である。

B子どもたちと遊んだことがあるか
Cよく知っている子どもはいるか
D子どもにお金をあたえたことがあるか

「遊び」について

子どもたちと遊んだことがあると答えた者は全体143人中61人(42%)である。世代別では20才代の6人中4人(66%)が最高で50才代47%、40才代42%と続いている。30才代・60才代は平均より5%〜9%低率となっているが、世代別で著るしい特徴は見い出せない。

遊びの内容では公園などで野球やキャッチボールをするとする者が16人いてトップで、その他ゲームをしたり、話をする、かき氷やチョコレートなど物を与えるという回答がみえる。

表5 子どもたちと遊んだことがあるか。
  ある(%) ない(%) N.A.

20才代 4人(66.6) 1人(16.7) 1人(16.7) 6人(100)
30才代 6人(35.3) 10人(58.8) 1人(5.9) 17人(100)
40才代 16人(42.1) 19人(50.0) 3人(7.9) 38人(100)
50才代 17人(47.2) 17人(47.2) 2人(5.6) 36人(100)
60才代 4人(33.3) 8人(66.7) 0人(0.0) 12人(100)
70才代 2人(40.0) 3人(60.0) 0人(0.0) 5人(100)
不 明 12人(41.4) 15人(51.7) 2人(6.9) 29人(100)

61人(42.7) 73人(51.0) 9人(6.3) 143人(100)



「知っている子ども」

よく知っている子どもはいるかの回答は表6の1である。また知りあいの子どもの数をあげた者の分布が表6の2である。

表6の1 よく知っている子どもはいるか
  いる(%) いない(%) N.A.

20才代 4人(66.6) 1人(16.7) 1人(16.7) 6人(100)
30才代 7人(41.2) 8人(47.0) 2人(11.8) 17人(100)
40才代 3人(34.2) 23人(60.5) 2人(5.3) 38人(100)
50才代 9人(25.0) 25人(69.4) 2人(5.6) 36人(100)
60才代 1人(8.3) 10人(83.7) 1人(8.3) 12人(100)
70才代 2人(40.0) 2人(40.0) 1人(20.0) 5人(100)
不 明 9人(31.0) 16人(55.2) 4人(13.9) 29人(100)

45人(31.5) 85人(59.4) 13人(9.1) 143人(100)

表6の2 よく知っている子どもの数の分布
子どもの数 1人 2人 3人 4人 5人 6〜9人 10〜19人 20人以上
人 数 2人 6人 6人 2人 7人 1人 5人 3人
「いる」のうち人数をあげた者 32人 N.A.13人

20才代の66%が最高で、60才代8%と極端に低率であることを除いて、世代別に特色はみい出せない。

ただ注目すべきことは前項つまり「子どもと遊んだことがある」と答えた者61人に対し、「よく知っている子どもがいる」と答えた者45人と11%下回っていることである。特に40、50才の各世代はその落差は25%と22%になっている。

この落差は一体何を意味するのか。これは労働者が子どもと遊ぶ場合、どこの、誰れかもよく知らないで、公園などで偶然、居合せ遊んでいるというケースがあることを示唆する。「子どもにあたえたお金」(表7の1)

表7の1 子どもにお金をあたえたことがあるか。
  ある(%) ない(%) N.A.

20才代 6人(100) 0人(0.0) 0人(0.0) 6人(100)
30才代 6人(35.3) 9人(52.9) 2人(11.8) 17人(100)
40才代 20人(52.6) 16人(42.1) 2人(5.3) 38人(100)
50才代 18人(50.0) 16人(44.4) 2人(5.6) 36人(100)
60才代 5人(41.7) 7人(58.3) 0人(0.0) 12人(100)
70才代 2人(40.0) 3人(60.0) 0人(0.0) 5人(100)
不 明 7人(34.5) 18人(62.1) 4人(13.8) 29人(100)

64人(44.1) 69人(48.3) 10人(7.0) 143人(100)

子どもにお金をあたえた経験のある者、143人中64人(44%)と以外に多い。これも「よく知っている子どもがいる」45人(31%)に比して高率であり、よく知らない子どもにお金をあたえている労働者の存在を物語っている。世代別では20才代が6人全員がお金をあたえたことがあり、ついで40才、50才代が50%と高率で続いている。30才代、年令不明グループは35%、24%と低くなっている。

あたえたお金の額の分布が表7の2である。下は10〜20円から最高額3千円となっているが、100円〜200円をあたえた者が28人と最も多い。この他、ジュースなど物をあたえた者が数人いる。

表7の2 子どもにあたえた金額の分布
100円未満 4人
100〜200 28人
200〜300 2人
300〜400 3人
400〜500 1人
500〜1000 8人
1000円以上 6人
合 計 52人

N.A. 12人

なお、お金をあたえ際に、自分(労働者)から進んであたえたのか、子どもにせがまれてあたえたのかは33人と31人でほぼ拮抗している。

通常、大人が子どもに小遣銭を与える場合、それは、親戚の子どもであったり、近所のよく知っている子どもであるのが普通である。ところが「釜ヶ崎」では、労働者と子どもの間にはそのような関係はむしろ少ない。一時的・偶然的に生れた関係の方が多い。とすれば、お金を与えることで関係が生まれるという傾向も読みとれないことはない。