1996年9月行政への要求書

大阪府知事 横山 ノック殿

大阪 市長  磯村 隆文殿

大阪市・府に対する統一要望書

            釜ケ崎就労・生活保障制度実現をめざす連絡会(釜ヶ崎反失連)

            共同代表 山田 実・本田哲郎・大谷隆夫

             連絡先  西成区萩之茶屋3−1−10ふるさとの家気付

私たちは、本年6月の「大阪市・府に対する統一要望書」において、『野宿者が存在させ続けさせられることは、社会の中に「差別者」を生み出し続けることであり、社会生活への不安を生み出し続けることである』と指摘した。

この指摘が単なる文章上の表現にとどまるものでないことは、講談社の「別冊フレンド」の事例が明らかにしている。

「別冊フレンド」本年3月号の連載漫画「勉強しまっせ」の中に「西成」の地名が使われたのに対し、編集者が『*大阪の地名。気の弱い人は近づかない方が無難なトコロ』と、「西成」が怖い所であるような偏見に満ちた説明を付けた。

西成区人権啓発推進会によれば、編集者は通天閣や新今宮界隈を歩いたときに野宿者を見て怖いという印象を受けたので、自分の印象をそのまま説明に表した、ということである。

説明を付けた編集者や全国に広めた講談社の責任はハッキリしているが、「差別者」を産み出す契機となる現実―野宿・路上死―を解消し得ないでいる大阪府・市の責任もまた明白である。

私たちは、第一義的に自分と仲間のかけがいのない生命と生活をを守るために、そして、自分と仲間の社会的存在が社会の中に害を産み続けるものとされていることを断固として拒否するために、施策を要求しているが、

「西成」住民、とりわけ「西成」に生まれ育つ子どもたちが、差別と偏見の対象とされないためにも、「西成」の具体的現実を変革し、「西成差別」解消への道筋を示す具体的対応が大阪府・市に求められているのである。

「高齢者清掃事業」は、1994年に登録が開始され、毎年切り替えの形で、本年3回目の切り替え登録となっているが、

登録者は毎回900名を越え、実際に就労しているものは800人近くと数的に一定している。3年に渡っての数量的固定傾向は、「高齢者清掃事業」の必要が一時的なものでなく、恒常的なものであることを示している。

同時に、釜ヶ崎反失業連絡会が本年7月16日から7月25日の間に実施した高齢者清掃事業就労者アンケート(回答数404名)によれば、今回が初めての登録であるのは56名(13.9%)にとどまりっており、質的にも固定しつつあることを示している。

この高齢者清掃事業就労の層だけに注目しても、常時野宿しているものは226名おり、前回清掃就労から回答日(清掃就労日)までの間に一日以上野宿したもの(五四名)を加えると69.3%が野宿から逃れられない生活に留められていることになる。

この現実の変革への取り組みが、「西成差別」解消への第一歩として大阪府・市に求められているのである。

更に、強い言葉で行政責任を言い表すならば、「エイズ問題」の責任追及と同様の法論理が適用される。

「未必の故意」―『行為者が、罪となる事実の発生を積極的に意図・希望したわけではないが、自己の行為から、ある事実が発生するかもしれないと思いながら、発生しても仕方がないと認めて、行為する心理状態。故意の一種。(広辞苑第四版)』―がそれである。

路上死全体について適用が可能と考えられるが、もし清掃事業登録票を持つ労働者が路上で衰弱死したことが明らかになれば、安部某同様に、確実に、大阪府知事と大阪市長は、そして、労働部と民政局の担当者は、殺人罪で刑事告発の対象となるであろう。

1992年から丸4年の連続した反失連・釜ヶ崎労働者の行動の積み重ねだけでも、因果関係は誰にでも判る形で提示されていると考える。

私たちは、路上死を無くすために以下のことを要求する。

 

要求事項

◎10月より緊急対応を為すこと

 府労働部は94年に「緊急的対応」として清掃事業を開始したと、府議会で説明している。ならば、本年の釜ヶ崎の状況はどうであろうか。仕事の量は94年の水準近くまで減っている。にもかかわらず、震災の影響で一時的に増加した仕事を見込んで釜ヶ崎へ新たに来た労働者は、現在も釜ヶ崎にとどまっている。その結果、高齢労働者の就労は以前にもまして困難な状況に追い込まれている。野宿に追いやられる労働者も増加している。94年に「緊急的対応」が必要であると判断し、それなりの対応をしたのであるからには、本年においても同様の、いや、当時を上回る対応が為されて当然であろう。最低、センター清掃の10月再開、街路清掃の増員を求める。

1)高齢者就労枠を拡大すること。

求職者数に見合う仕事を確保すること。

3年に渡る登録数の把握は、「試験的段階」から求職者数に見合う仕事の紹介をする「本格実施」への移行を必然化するに十分な根拠である。府・市協力して就労先を開拓し、一人最低週三日の就労を保障すること。

萩之茶屋3丁目や尼平線の動物園一番街から26号線までの区域あるいは釜ヶ崎隣接の府営施設等々への清掃事業対象拡大をはかること。

府は「端境期対策」的位置づけを改め、センター清掃を通年化すること。

就労枠拡大に西成労働福祉センターが対応できるように、西成労働福祉センターの施設・人員の拡張を行うこと。

登録切り替えの目的は達せられたものと考えられるので、新規登録のみとし、切り替えは行わないこと。就労者の就労単位でのグループ化が進みにくいから。

2)建設土木業界に使用者責任をより強く認識させること。

高齢者清掃事業就労者アンケートの平均年齢は62.7歳であり、平均釜居住年数は20.3年である。

来釜時期では三つの大きな山があり、一番高い山は1986―1990年の21%、次いで1976―1980年の19.9%、そして1966―1970年の18.8%となっている。この三つの時期を簡単に説明すれば、「万博」準備期、景気刺激としての公共投資拡大期、バブル経済期である。

来釜以前の就労産業でもっとも多かったのは、建設土木産業の38.9%で、平均在職年数は17年であった。

以上から言えることは、釜ヶ崎の多忙期に仕事を求めて来た人が59.7%に達し、釜ヶ崎に来る前からを含めて建設土木産業で長年に渡って働き続けた来た人たちが多数を占めているということである。使い捨て労働力として「使用」してきた産業界の社会的責任は大きく、釜ヶ崎対策により大きな資金的負担を求めるべきである。

3)建設業退職金共済制度の適用拡大に努め、弾力的運用を追求すること

釜ヶ崎労働者の平均在釜年は10年から15年の間にあることは確実であり、共済証紙を貼り続けていれば、一人当たり10年としても1,006,244円もらえる勘定である。集団で捉えれば、百億円となる。また、未貼付の証紙が業者の手元に眠っていることも事実である。いうなれば、本来なら釜ヶ崎労働者に渡るべき退職金が保留されているのである。集団に対する還元策が考えられるべきである。

4)雇用保険適用条件の緩和を追求すること

週休二日の社会的定着を理由に雇用保険印紙の貼付枚数が二ヶ月28枚から26枚に変更された。今や高齢化も社会常識となり、高齢者の就労日数が伸びないこともまた社会的常識である。であるならば、高齢者の貼付枚数は軽減措置が取られるべきである。

また、建設土木産業以外にも日雇労働雇用保険制度の周知に勤め、印紙の普及を計ること。

5)「高齢者事業団」の必要性を認識すること。

釜ヶ崎高齢労働者の就労保障のためには、「センター」での紹介数の拡大がもっとも重要な課題ではあるが、最低でも日々300人の求人紹介が求められている現状からすれば、専業機関が必要とされていることは明らかである。「公共・民間」の分野を問わず、就労可能先を開拓する「営業努力」、就労先の仕事内容に応じた就労希望者の振り分けをおこなう「人事」、不採算性を補う一定の「資金面での裏付け」、これらの点を満足させる組織は、「官」単独あるいは「民間」単独で成り立つことは困難であろう。初動体制の確立と、継続的な一定の仕事保障、補助金での経営のバックアップは「官」のなすべきことであろうと考えられる。

長期的視点で高齢者対策を考えるならば、誰でもが行き着く「高齢者事業団」の必要 性を、まず認められたい。

「高齢者事業団」設立のための、行政の側から考える条件を示されたい。

6)野宿者自立援助の要として住居問題に力を注ぐこと

○「ホームレス・シェルター」を設置すること。

 緊急的に、南海電車天下茶屋線跡地に越年臨泊並のプレハブを建てること。

三徳寮にみられるショート・ケア・システムを充実させ、なお一層拡大につとめること。

簡易宿泊所を借り上げ、野宿者を入居させること。

 ○大阪市更生相談所条例を見直すこと。

  施設収容第一主義を改め市更相相談受付者についても、簡易宿泊所を居所とした居宅保護を認めること。または、民間アパート入居希望者へ敷金を貸与すること。

7)単身労働者用低家賃勤労者住宅を地区内あるいは隣接地に建設すること。

8)日雇労働者の就労保障制度を確立すること。

 現在の「相対方式」が求人を公平に行き渡らせる調整機能を欠いていることを認識し、日雇労働者が好・不況にかかわらず、一定数安定して就労できる制度を、公共事業落札業者への吸収率の義務付けなど実効性のある規定を設けた制度として発足させること。その上で、「あいりん職安」において紹介すること。

9)釜ヶ崎に対する社会認識を改めることに努めること。

釜ヶ崎に対する誤った認識を改めるためには人権啓発活動の中に、釜ヶ崎のことが  組み入れられるべきだと考える。

府市職員や多くの人々に対する啓発活動を行うこと。

釜ヶ崎地区への理解を促す「教材」が作られ、広く配布、活用されるよう努めること

10)あいりん職安南分室敷地に高齢労働者支援センターを建設、以下の業務がおこなわれることが必要である。

○就労不能だが活力ある労働者のために、内職的共同作業場を設け、運営をおこなう。

○年金その他社会福祉制度活用についての相談業務。

○物心両面に渡るカウンセラーの常駐。

○仕事以外での社会参加の可能性を広げるためのボランティア養成講座など、高齢労働者の能力拡充のための成人学級の運営。

○木工工芸などの技術養成の場

以上の機能を実りあるものとするために、総合文化施設の中に釜ヶ崎にこそ温泉を!労働者の施設利用の活性化と利用者相互の関係づくりに有効だと考える。

11)花園公園に公衆便所を設置すること

清掃事業就労労働者の報告によれば、花園公園周辺に人糞の散乱が著しいとのことである。公衆衛生上好ましくないので、公衆便所を設置されたい。また、釜ヶ崎地区は人口密度が高く、終日街路が賑わう場所であるにも関わらず、公衆便所の数が少ないと思われるので、他の場所においても増設を検討されたい。

12)府・市連名で国に対し、「釜ケ崎総合対策に関する要望書」を提出すること。

 本来、釜ケ崎日雇労働者の存在は、日本全体の経済や政府の政策に起因するものであり、大阪府・大阪市の二自治体だけが責任追求され、財政負担して対処しなければならないものではない。また、現行行政制度では運用上問題に対応しきれない面もある。よって、現状内での精一杯の問題解決へ向けての努力を前提としつつ、より根本的対処にむけて国に責任を取らせる要望書が提出されるべきである。

 なお、国への働きかけは幾度も繰り返されるべきである。丁度、府市に対する私たちのように。

以  上

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